やしお

ふつうの会社員の日記です。

外国人を労働力の機械にするシステム

 NHKスペシャルの『夢をつかみにきたけれど ルポ・外国人労働者150万人時代』(7/13放送)を見て、こんな風に人の人生と労働力を掠め取る仕組みなんだなと思った。留学生・技能実習生の問題は色んなところで散々指摘されて今さらのような気もするけれど、現在進行形の話でもあるし(今年の4月に入管法が改正されて拡大している)、自分が忘れないように整理しておこうと思った。
 番組ではベトナム人に絞って事例が紹介されていた。


 留学生の20代の青年が、退学して密漁に加わって転覆して死ぬまでの事例を追っていた。
 日本語を習得して日本での学習・労働実績もあれば、帰国後も日系企業に就職できて高収入が望める。またベトナムの平均月収は17,000円だから、仕送りもできる。貧しい村で生まれたその青年は高校卒業後にベトナム国内で働いていたが、20歳で一念発起して日本へ留学する。ここで100万円の借金を負う。


 日本で語学学校に入学するが、授業の質は低く、同級生たちはアルバイトで疲弊して授業中に眠っている。講師は起こそうともしない。彼はSNSで隣で机に突っ伏して眠る同級生を背景に自撮りをアップして「勉強はしているが、悲しい」とコメントを残している。
 このあたりの話は、クローズアップ現代『留学生が"学べない" 30万人計画の陰で』(6/27放送)でも、主に東京福祉大の事例で特集されていた。留学生を受け入れて働かせ、授業料を徴収する。当時の総長が「4年間で120億円入る」「ガバチョ、ガバチョだろう」と発言した音声が放送されていた。校舎はただのビルのテナントの一室、教科書は留学生向けでも何でもない市販の書籍。学校が留学生にアルバイトを斡旋して夜8時から朝5時まで働く。学校側が「誰がどのバイトをしているか」リストを作って管理する。学費や家賃・光熱費を支払うと手元に所持金がほとんど残らず週千円で暮らす。そんな実態が報告されていた。


 Nスペの留学生も似たような状況に陥って、ついに退学してしまう。まともな授業も生活のサポートも提供してくれない、自分のスキルアップに寄与しているとは信じられない学校に、安くない授業料を払い続けるのが嫌になるのは当然だ。純粋に搾取されている、と感じるのは当たり前の感覚だろうと思う。それにアルバイト代では借金を返すペースが遅いとも言っていた。どうせ学校でスキルが得られないなら、授業料で持っていかれる分を借金返済に充てて早く必要な金を稼いで引き上げたいと考えるのも自然だ。
 しかし退学すると在留資格を喪失するため不法滞在となってしまい、さらに立場が弱くなっていく。過酷で危険で違法な仕事の勧誘を受ける。最後は千葉の銚子で密漁に加わり、転覆して海で亡くなる。26歳だった。
 彼が亡くなる前まで共同生活していたアパートのベトナム人達にもインタビューしていて「ここにいる人間はもう行くとこまで行くしかない」と語っていた。


 ベトナムで青年の両親にもインタビューしていた。不法滞在になったと聞いた時、帰国するよう説得したが聞いてくれなかったという。月収1万7千円の国で、100万円の借金を抱えて、このまま帰れば「自分の選択のせいで」まるごと借金を背負わせると分かっている中で、帰るという選択肢は取りようがなかったんだろうと思う。
 両親は「息子が帰ってこなければお金なんて意味がない」と語っていた。母親が息子の墓にすがって号泣しながら、何かお経のような歌のようなものを歌っていた。そんな場面を見ながら、月並みだけど人の人生や命って何なんだろう、こんな風に他者を純粋に使い捨てにするってことが自分の住んでる社会で現に起こってるんだなと思うと堪らない気持ちになる。


 番組では留学生だけでなく、技能実習生の事例にも触れていた。愛知や岐阜や滋賀で清掃や梱包などの単純労働をして、脳梗塞を発症し半身不随になった30代のベトナム人男性の話。日本へ来るための100万円と入院治療費の400万円の合計500万円の借金を抱えて、強制送還される。外国に来て、3年間働いて、その成果が500万円の借金と不可逆的に破壊された身体だっていう話だった。涙を流して「日本に来たことを後悔している」と語っていた。自分がこの人の立場だったら、これならいっそ死んだ方が良かった、と思うことさえあるだろう、帰国しても家族や親族からそう思われてるんじゃないかという気持ちになったりするかもしれない、と想像するとつらい。


 技能実習生になって、良い実習先や良い仕事に割り当てられる人もいるが、それは運次第だという。一度入った実習先は原則変更不可というのが現行の制度だという。悪い職場にあたって殴られたり罵倒され、実習先を管理している団体に職場の変更を申し入れても聞き入れられず、川辺の木に電気コードで首を括って自殺した20代のベトナム人の青年の事例が紹介された。
 留学生のパートでも、ベトナムの斡旋業者が「上手くいけば2万5千円~5万円くらい仕送りができる。でも成功するのは2割くらい」と語っていた。この「上手くいく人も実際にいる」というのがくせ者なんだと思う。仮に良くない噂を聞いても、今の生活を良くしたいと考えて、これ以外の選択肢がないと信じている間は、そのリスクに目が向きにくい。一種の正常性バイアスが働いたりするのかもしれない。


 日本行きを決意するタイミング、退学を決意するタイミングで、一段ずつ罠が張られている。現状を少しでもマシにする選択肢を選ぼうとするとより苦しい状況に追い込まれるような、そんな罠が何重にも張られている。そして一度そっちに進んでしまうと借金や在留資格といった軛によって逃れられなくなる。川に沈めて魚を捉える罠みたいだ。中に餌があって入ると返しがあってもう出られない。留学生や実習生の側から見れば、日本の学校も会社も制度もよってたかって自分を食い物にしているように見えるだろう。
 でも、例えばこのことを50年後とかに「労働搾取はありませんでした」「本人達は自発的な意思で選択しただけです」って政府は言うのかもしれない、みたいな想像をしたりもする。


 以前、警察24時的な番組で(警察じゃないけど)、不法滞在の外国人を摘発するシーンを見たことがある。潜伏先(というか自宅)を特定して踏み込む場面だった。ネットとかでも「違法だから許すな」といったコメントを見かけることがある。でも、日本国憲法の第22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。」だ。
 「何人も」とされていながら現実的には外国人にはこの自由に制限が加えられている。(外国人以外にも、例えば皇族や受刑者も制限される。)このことは、ある人物の基本的人権をどの国家が一義的に保障するかを特定した方が、現実的には基本的人権の実現のために有効である、そのために国籍でラベリングして「自国民の基本的人権を国家は保障する」というロジックが背後にある。
 留学生・技能実習生は、「まずは自国民の基本的人権を実現させる」という話を、あたかも「自国民にのみ人権は保障すればよく、外国人は除外して構わない」というロジックにすり替えるような、逆用というか悪用に近い感じなんじゃないかと思う。そしてこれを曖昧に肯定しているのは、「ルールに反していなければいい/反しているからダメだ」という理屈だけど、この理屈は「ルールが無謬かつ合理的である」という前提がなければ成り立たない。でもその前提を忘れることで「違法だから許すな」と簡単に言えてしまう。前提や背景を見捨てて狭い範囲だけを見ることでしか成立しない。


 なにか、集団での未必の故意、みたいな感じなのかもしれない。制度を設計している人達も、学校も、実習先の管理団体も、職場も、「放っておけばこの人達の人生を台無しにするかもしれない」と思いながら、でも「本人がそれを選択した」という言い訳を残しておくことで、「自分が積極的に手を下した訳じゃないし」と自己弁護することができる。責任をみんなで薄めた上で、決定的な責任は本人に負わせるような構造なんだろうと思う。


 今年4月に施行された改正入管法は、昨年12月8日の未明に参議院で与党の賛成・野党の反対で成立した。採決の前日、12月6日午前の参院法務委員会で、立憲民主党有田芳生委員がこうした実態について指摘していた。

 例えば、ベトナムハノイの空港から、お父さん、お母さんに送られて、若い二十六歳の男性あるいは女性たちが技能実習生として働くために日本にやってきた。ホーチミンでも、あるいは中国からも、モンゴルからも、タイからも、多くの若者たちがこの日本にやってまいりました。しかし、技能実習生の実態というのは、前回もお話を伺いましたように、非常に過酷なものがある。今でも続いています。
 法務省が調査した結果、自らを守るために失踪せざるを得なかった若者たち二千八百七十人の調査の結果明らかになったことは、法務省がこれまで明らかにしたように、最賃以下、二十二人、〇・八%どころか、六七%、約、二千人近い人たちが最賃以下で働かざるを得なかった。さらには過労死、その水準の環境の下で働かざるを得ない人たちが一割いたということが私たち野党の調査、分析によって明らかになりました。
 しかし、事はそんな状況にはありません、実は。今から驚くべき新しい事実、資料を明らかにいたします。
 過労死水準で働いていた人たち、今でも全国各地にいる。これは法務省が作成した資料です。技能実習生でどれだけ多くの人たちが命を奪われたか、失っているか。
 例えば、平成二十七年一月四日、中国からやってきた三十二歳の女性、溺死。一月七日、中国からやってきた二十八歳の男性、凍死。二月二十一日、モンゴルからやってきた三十四歳の男性、自殺。三月二十六日、ベトナムからやってきた二十五歳の男性、自殺。ラオスからやってきた二十九歳の男性、急性心筋梗塞。中国からやってきた二十一歳の女性、自殺。ベトナムからやってきた二十一歳の女性、低酸素脳症。中国からやってきた二十三歳の男性、くも膜下出血。中国からやってきた三十三歳の男性、溺死。ベトナムからやってきた二十五歳の男性、小脳出血ベトナムからやってきた二十七歳の男性、脳出血ベトナムからやってきた二十一歳の女性、溺死。中国からやってきた二十九歳の男性、溺死。中国からやってきた三十五歳の男性、急性心不全。中国からやってきた二十八歳の男性、急性呼吸促進症候群。中国からやってきた二十二歳の女性、くも膜下出血
 ごく一部です、今御紹介したのは。多くの、若者たちですよ。日本にやってきて凍死、溺死、自殺、病死、ずうっと続いている。今だって続いているんですよ。これが技能実習生の実態ですよ。これ法務省の資料ですよ。大臣、これ御存じですか。

 この質問に対して、山下貴司法相は「もとより、この資料については承知しております。」と回答し、有田委員が入管当局でどう対応・調査したのか質問すると、政府参考人の和田雅樹入管局長は「調査しているかどうかにつきましては、私には、こちらでは、当局として把握していないということでございます。」と回答して紛糾したのだった。
 この時山下法相は「まだ足らざるところが今ないか、それは弁護士であります門山政務官をトップとしたこの技能実習の運用に関わるプロジェクトチームについて、その方策についてしっかりと検討していきたいと考えております。」とも回答している。このPTは採決の約2週間前、11月19日に発足したもので、「技能実習生の失踪問題が国会審議等において注目を集めたことにより」(「調査・検討結果報告書」の「設置の経緯及び目的等」より)設置されたものだった。
※「技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム」の「調査・検討結果報告書」は発足から4ヶ月後の今年3月に発行されている。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/ginoujisshukyougikai/190425/4_pjteam.pdf


 委員会は午後になって安倍首相が出席し、有田委員が改めて質問する。

 私が言いたかったのは、そういう外国人の技能実習生が日本にやってきて、自殺、凍死、溺死。溺死はこの三年間で七人ですよ。おかしいでしょう。何でこんな事態になっているのかということを今朝入管局長に聞いても、法務省は分からない。そんな異常な事態が起きているのに何で調べないのか、総括しないのか、対策取らないのか。おかしいでしょうということをお聞きしたいんですよ、法務省の対応として。
 だから、具体的なこと聞いているんじゃないんですよ。溺死とか自殺とか、そういうことがあるのに法務省は分からないという体制を総理はどうお考えですかという質問なんです。

 これに対して、安倍首相の答弁は以下の通りだった。

私はその表も見ておりませんからお答えのしようがないわけでございますが、亡くなられた事案、今、溺死された方が三名ですか、三名おられるという御指摘ございますが、私はその事実もその表も知りませんし、その事実が果たしてどういう結果そうなったか、実際に三名おられるのかどうかも含めて、じゃ、どういう結果でそうなったかということについても、これは存じ上げませんのでお答えのしようがないわけでございますが、これは、法務省において、もしそれが異常な数値であれば、当然それはどうしてそうなったかということは対応していくことになるんだろうと、こう思うわけでございますが、いずれにいたしましても、今までの実習制度等々、あるいは留学生の方々がアルバイトで働くこと等々において様々な御指摘がございました。そういう御指摘を踏まえた上で、今回、新たな制度をつくり、法務省の中において出入国在留管理庁をつくって、しっかりと直接そこが指導監督を行っていくことになるんだろうと、こう思います。

 映像で確認すると安倍首相はこの発言の前半でへらへらと笑っている。ただそれは亡くなった人達を笑っているというより、野党の追求を「難癖やいちゃもんを付ける野党と、呆れて笑う自分」といったイメージで片付けようとする癖が付いてしまっているために、ここでもそれが出ているだけだろうと思う。「実際に三名おられるのかどうか」というエクスキューズも、「野党による印象操作の被害を受けている自分」という被害者意識から来るのかもしれない。「私は総理大臣ですから、森羅万象すべて担当しております」(19年2月6日参院予算委)と語ったり、あるいは「自分は行政府の長である」という発言をよくするところからも、強いリーダーとして自分がコントロールしているんだという自負はあっても、こうした場面では「(法務省で)対応していくことになるんだろうと、こう思うわけでございます」と他人事のように語られる。それを聞くとやっぱり、嘘でもいいから真剣な顔で「人権侵害は必ず私が解決する」と言い切ってほしいな、と虚しい気持ちになる。
※12月6日の参院法務委員会の議事録と映像は以下。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/197/0003/19712060003008.pdf
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php


 労働力の不足が深刻だから改正入管法を通します、でも現行制度での人権侵害などの問題点は後から検討します、と言われてしまうと他国からも「労働搾取だ」と見えても仕方のないことだろうと思う。
 資本主義の基本的なメカニズムとして、価値体系の差分がどこかにあれば均される方向に進むのはどうしようもない。賃金のレートに差があれば、そこが利用されること自体は現行のシステムでは今すぐ変えることは難しい。事実、相対的に賃金の高い国でタクシー運転手や清掃員やベビーシッターを周辺の賃金の低い外国人が担っているのは世界的にもありふれた光景になっている。労働者がすなわち消費者であるという産業資本主義の原則(ここが奴隷性とは異なる点になっている)に従って、外国人労働者内需の下支えにも寄与する。
 ただその選択がせめて自由であってほしい、フェアであってほしいだけだ。借金や違法性で立場を弱くして縛り付けるのはヤクザのやり方だ。番組は「国際社会から労働搾取だと批難されている」と指摘する。他国の制度設計も調べて比較しないとフェアじゃない、って言い分もあるかもしれないけど、「あいつが殴ってるんだから俺も殴っていい」という道理は通らない。
 そうして搾り取れるだけ搾るのはやっぱり、あんまりにもあんまりだ。人間は手段じゃなくて目的だ。


 『月曜から夜更かし』(6/17放送分)で外国人在留者に街頭インタビューをしていて、彼らは一様に「コンビニ店員になれる外国人はすごい、リスペクトしている」と答えていた。接客できるレベルで日本語を習得して、多様な仕事も覚えるのは大変なことだという。VTRが明けてマツコ・デラックスが「そう聞くと見方も変わるよね」と言って、観覧席にいた若い人たちがうんうん頷いていた。
 そしてインタビューを受けた外国人達は日本や日本人が好きだから来たと言っていた。その一方で日本に行くという選択肢を後悔しながら帰国したり、あるいは帰国できずに亡くなる人達がいる。自分の生活がそうした犠牲で成立していることを思い知らされるのもしんどい。例えば50年くらい経って、逆に日本人の若者が外国でそうした働き方を強いられる未来もあるのかもしれない、みたいなことを番組を見ながら考えていた。