やしお

ふつうの会社員の日記です。

中国の人たち

 お盆の間に中国の工場に出張してきた。この間なら他の仕事に影響ないし、中国は操業しているから……。今回は3日間だけだったけれど工場の現場作業者(製品検査の現場)に囲まれて仕事をしていて、思ったことをせっかくだからメモしておこうと思って。
 中国出張自体は初めてじゃないけど、現場に入ってずっと一緒に過ごしたのは初めてだった。


 現場作業者のお姉さん(私は4, 50代の女性をこう呼ぶ)たちはほんとにみんなずーっと喋ってる。楽しそう。声も大きい。別にお姉さんに限らずおじさんでも若い人でもそう。よく笑う。
 空間を言葉で埋めないといけない、それが当たり前という感覚なんだろうか。例えば「シェシェ」(ありがとう)と言うだけでも「シェシェシェシェシェシェ」と繰り返し言う。とにかく言葉を繰り返す。会話だけじゃない。作業をしている間も一人ごとを言ってる。
 あと自分は中国語がほとんど分からないけど、でも普通にガンガン中国語で喋りかけてくる。「こいつは中国語が分からない」と知っていても気にせず中国語で話しかけてくる。日本人の側は頑張って中国語で喋ったり英語を使ってみたり相手に伝わるように努力するけれど、そういったことは気にしないみたいだった。現場だとすごく親切だった。自分の素性を相手も分かっているからってこともあるとは思うけど。あれを食べろだのこっちへ来いだのお前は誰それに似ているだの言って大笑いしている。
 さっぱりしていると言えばさっぱりしている。


 会社に限ったことでもなく高速鉄道(新幹線みたいなもの)の車両の中もそう。日本だと満員でもそんなにうるさくないし、無臭で、特に金曜日の夜に新幹線に乗ると出張帰りの会社員たちがいっぱいいて満席なのにすごく静かで変な感じがする。高鉄はみんな大声で喋るしスマホで動画を大音量で見ているし、果物もたくさん食べるから複雑な匂いで満たされている。空間を音が満たしているみたいな感じ。


 列に横入りされたり、分からないのにガンガン喋りかけられたり、嫌なことははっきり嫌な顔をされるのは、日本社会の中で生まれ育ってきた感覚からするとストレスだけど、そこをいっぺん忘れてこっちも同じように振る舞ってみると、とても気持ちが楽になる。相手に過剰に期待して、その期待が裏切られるとイライラして、でも黙ったまんまお互いがお互いに「空気を読め」と思い合って圧力をかけ合うより、「私は私のしたいようにするから、あんたもあんたの好きなようにすれば」に切り替えるとやっぱり気分は楽だなと思った。
 バランスの問題だ。空気を読み合って気を遣い合えば快適な空間は得られるけれど行き過ぎれば息苦しくなる。空気をまるで読まずに好き勝手にやれば気楽だけれど行き過ぎれば衝突ばかりが生まれる。たまに逆の社会を体験して自分の環境を相対化して、やり過ぎないように心がけるくらいがちょうどいいのかもしれない。


 あと日本語通訳の20代の女性と休憩していた時、チェーンのティースタンド「1點點」(イーディエンディン)のタピオカミルクティーを飲んでいて「台湾のお店? 中国のお店?」という話になった時、女性が「台湾も中国」ときっぱり言うから(やばっ)と思った。(なお後で調べたら「1點點」は台湾の「50嵐」が大陸で出店してる時のブランド名らしい。)彼女は「今は香港の話もあるので、その話題は難しい」と言った。「じゃああまり話題にしない方がいいですかね」と言ったら「私は台湾の話題は大丈夫です」と言う。
 「中国の人は台湾の人が嫌い」「特に若い世代がそう」と言っていた。中国政府が今月(8/1)から国民の台湾への渡航を禁止したというのは、日本でもニュースでやっていたんだろうけど見逃していて、彼女から聞いて初めて知った。そして「禁止される前から中国人は自主的に台湾に行かないようにしてる。お金を台湾に落としたくないから」と言っていた。「でもたぶん台湾の人達も中国のこと嫌い」とも言っていた。
 「まあ近い相手に対してライバル意識を持つことはよくありますよね」と一般論で返した。「隣の国」という言い方をしたら「国じゃない」って言われるに決まってるから、「近い相手」という言い方をしてみたのだけど、「ライバルなんて思ってない。向こうが思ってるだけ」と言われて、さらに深みにはまったみたいになってしまった。


 自分が先月に台湾に出張してたって話をしたら「どうでした?」と聞かれた。率直に言うと台湾の方が好きで、中国は出張なら行くけど旅行では行きたくない。それは中国が反日だからとか中国人の国民性がとかいうより、台湾は

  • インターネットの制限がない
  • クレジットカードが使える(中国だとスマホ決済ばかり)
  • 英語が通じやすい(中国本土よりは?)
  • 衛生観念が日本に近い(中国は食器の洗い方とかもすごいから……)

といった外国人訪問者にとっての利便性や実利的な面で「中国より台湾の方がいい」と思っている。
 でもこの流れで「台湾の方が好き」と素直には言いづらくて、「タピオカミルクティーとかかき氷を食べておいしかったです」と当たり障りのないことを言ったら「食べ物はおいしいですよねー」とのことだった。
 ティースタンド、タピオカミルクティーのお店で、繁体字を使って台湾風にしているけれど実は大陸発祥のチェーン店もあると言っていた。スーパーでも「台湾」とパッケージに書かれた食料品がたくさんある。台湾の「食べ物がおいしい」というブランドイメージだけは使わせてもらうけど、台湾のことは嫌い、という感じみたいだ。日本の「製品品質がいい」というイメージだけは使わせてもらうけど、日本のことは嫌い、というのと同じかもしれない。「嫌いだけど良いところは利用する」というのは合理的なやり方かもしれない。


 彼女は日本のドラマもネットでよく見ると言っていた。「おっさんずラブ」も見たという。自分は見てなかったけど、一緒にその会話に入っていた同僚(日本人男性)は「見た」と言ったら、「男性も見るんですか!」と驚いていた。「男性同士の恋愛ストーリーは女性が見るもの」という観念は中国にもあるのか、それとも彼女が日本語を話せて、もしかしたら日本への留学経験もあるかもしれなくてその中でその価値観を輸入したのかは分からない。
 でも中国ではゲイのストーリーはダメだという。それから「キス以上のことはダメ」とのことだった。そういうシーンは全部カットされるらしい。男女の恋愛だけとのこと。


 駐在して中国語も覚えて話をすればもっと色んなことが分かるんだろうけど、ちょっと行ってみるだけでも面白いなと思った。


 あと北京じゃなかったけど「北京ビキニ」をたびたび見かけて、最初に見たときは(これが!! あの!!!)と思った。