やしお

ふつうの会社員の日記です。

中村文則『土の中の子供』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/14632176

タクシー強盗に遭遇した時はちょっと笑ってしまった。死にかけ過ぎやろ! あるいは私をマンションに導く軍手の存在にせよ、都合の良さはフィクションにとって瑕疵でないにしても、これだけ周囲が抑制された中にあるとつい目について面白い。この<瑕疵でなさ>をもっと際立たせる、追求する方向(もっと大量に出すとか相対化するとか)に走らず抑制出来るのは何故と思っていたら、後書きで「世界の成り立ちや人間を深く掘り下げようと」云々の話があって、確かにそちらを追求すれば、フィクションの変な方へは走りださないかもしれない、と思った。


 主人公の認識が転倒しても、根本的に、「何か本質的なものが存在している」という信頼が揺らがないところがちょっと退屈だと思ってしまう一端なのかもしれない。
 そんな文句ばっかり言ってて、でも最後まで読み通しているというのは結構面白いと思ってるんだ。たばこがぽろぽろ落ちるところなんてきれいだった。意識がおかしくなるところもしっかりしててとても貴重だと思いつつでも、こう、手放しで興奮しはしないという。

土の中の子供 (新潮文庫)

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