やしお

ふつうの会社員の日記です。

体育会系の上下関係に頼らないという方向性

 「運動系の部活やってなかった人はちょっと採用したくないな」みたいなトゥギャッターのまとめをまただらだら読んでたら、途中に「吹奏楽部の人は運動系みたいなものだって主張してくる」って話が出ていて数年前の記憶が急によみがえってきた。
 会社の同期の女性が高校のとき吹奏楽部の部長になって、それまでの体育会系の上下関係や挨拶の伝統をやめて、みんなで仲良く楽しくやろうよって方針にしたら結果的に毎年入賞してたコンテストに落ちて下級生からかなりの突き上げを食らって出入り禁止みたいになった、といった話だ。そのとき吹奏楽部は上下関係が厳しいのが割と一般的と知ってとても驚いたのを覚えている。


 上下関係の感覚を使えば、最後の最後は「とにかく上が言うからそうする」という保証のラインができる。もしそれを破棄するなら、「なぜそうするのか」という問いに根本から答えていって、組織の目標やその手段を理詰めで構築する必要がある。そして構築するだけではなくて、メンバーにそれを押し付けと思わせないように納得させる必要がある。これはとてもしんどい作業だ。
 そうしたしんどさを(無意識にでも)回避するという意味で、「体育会系の人を採用したい」という認識に至ると思えばよく理解できる。

体育会系経験者は同じ目標に向かってみんなで頑張るとかしんどい練習に耐えるとか上の言う事を素直に聞くとかそういう経験を積んだり美徳を獲得してたりすると思うので

 まとめの中で上記の発言をしている人がいた。
 「なぜこの目標に向かわなければならないのか」、「どのようにみんなで頑張ればいいのか」、「どうしてしんどい練習に耐えないといけないのか」といった疑問を全て、「先輩(コーチ/監督/上司)の言うことだから」で処理する機構というのは、それなりの有効性があるように見える。
 もしそうした疑問で先輩・上司に反発するだけ反発して、しかし自分ではその疑問への解答を構築する能力のないプレーヤーと、「先輩・上司の言うことだから」で処理してとにかく文句も言わずに行動してくれるプレーヤーと二人いたら、後者を選びたくなるという気持ちはとてもわかる。
 先輩・上司の側が「なぜそうするのか」を正確に明示して納得させる作業をしなくて済むのだから、とても早いし楽だ。特にプレーヤー側の理解力があまりに低くて、どれだけ伝えても納得してくれない、そういう職場ならなおさら「体育会系の人を採用したい」と思うだろう。


 さっきの吹奏楽部の部長だった同期も、高校生の当時はそこまで理論を構築したりプロセスを設計したりするマネージャー/リーダーの能力はなかっただろうと思う。その状態で上下関係を廃棄すると、必要な行動をメンバーに強制もできないし、自発的に実施もしてもらえないしで結局、組織の目標を達成できなくなる。それに比べたらまだ、上下関係をメンバーに内在化させる方が、少なくとも組織の目標は達成できるのだからマシだという認識は理解できる。


 それでも、「上下関係を内在化させる」(それを当然視させて強いる)ことが「社会化」だなんて私は言いたくない。いくら日本社会にそういう傾向があったとしても、そうじゃないあり方は可能なはずだと思ってる。
 もともと人は「自分が自分の主人である」と思いたい。上下関係の感覚が廃棄されるとこの意識が前面に出てくる。そうするともはや、「会社は(継続的に)物やサービスを売ってお金もうけをする」といったレベルの、確実に相手と共有できるポイントからスタートして、最後に「だからこうする」という具体的な手段にまでたどり着くという作業を、しかも押し付けられたと思わせずに、自力で構築したと思えるようにする状況を作り上げていくしかなくなる。
 そういうことが大変でも、不可能ってことはないはずだと思える環境(職場)にいるというのは、私は恵まれているのかもしれない。どう考えても絶対ムリだろ、上下関係を強制する以外どうしようもないって職場もあるんだろうなとは思う。
 例えそうでも、上下関係の感覚を一気にじゃなくワンステップずつ解除するのは不可能ではないし、それを真剣に考えてやってみるのも面白いんじゃないかと思ってる。(ただマネージャー側の心が疲弊しすぎてそんなこと考える余裕がかけらもないという職場だと……もう……心の健康を第一にね……)



 あと関係ないけど一番あぶないのは、体育会系の上下関係を経験せずに大人になった人が免疫をもたないまま急にそういう後輩ができて気持よくさせられる、という状況だと思う。いきなり他人が全肯定に近い状態で接してくる。それを適切に割り引いて受け止められない。自分は正しいという勘違いを積み重ねて甘えていく。
 非体育会系の先輩 - 体育会系の後輩ラインが最も腐敗しやすく危険だ。
 そしてその後輩が、非体育会系のさらに下の後輩に上下関係の絶対視を強要しながら野放しになっている図式まで想像してみる。上は甘い腐敗臭が漂って、下は水のない砂漠、そんな地獄。



 これ書いたあとで思ったけど「体育会系」や「運動系の部活」って用語選択だと含まれるものが多過ぎてどうしても雑になる。ここではほぼ「上下関係を内在化させること」の意味で限定的に使っている。
 でも例えば運動部活アニメ・漫画のハイキューとか大きく振りかぶってとか思い出すと、むしろ上下関係に頼らず目的-手段を各メンバーが自分で考えるって話で、簡単に反証になるしね。



※そのトゥギャッター↓
  運動部未経験者は使い物にならない? - Togetter