やしお

ふつうの会社員の日記です。

中国工場の操業再開までの流れ

 大手メーカーに勤務していて、中国に生産子会社がある。新型コロナウイルスの報道がされ始めたのが1月初旬で、春節の休暇からそのまま操業停止だったのがようやく先週から再開された。
 赴任している日本人スタッフが全員春節に帰国していなかったので、そのまま向こうで再開のために奔走していた。(自分は何もしてない……)たぶんどこの会社でも似たような状況だったのかなと思うし、会社の具体的なことは書けないけどどんな動きがあったのかは、記録として残しておきたいと思った。


 工場の話の前に、日本側の本社がどんな動きをしていたのか時系列で並べておく↓

  • 【12月下旬】この時点で中国国内では「武漢の方で変な病気が流行してるから行かないほうがいいよ」と噂があって出張者が向こうの人から言われるケースがあった。(武漢での肺炎状の症状の集団発生は12月中旬に起こっている。)
  • 【1/7】[会社] 「中国で謎のウイルス性肺炎が流行」という報道が日本国内で出始めたのを受けて、総務部門から「気を付けてね。マスクもあるよ」という案内が出る。
  • 【1/23】[中国政府] 武漢市内の公共交通機関を運休させる。(ここまでで集団感染から1ヶ月が既に経っている……)
  • 【1/23】[会社] 武漢市への出張制限が全社的にかかる。
  • 【1/24】[会社] 一部職場で自主的に中国出張を取りやめるところが出てくる。人事部門から武漢への渡航歴がある人は帰国後2週間の健康チェックの指示が出る。
  • 【1/27】[日本政府] 武漢市内の邦人を帰国させる方針を出す。
  • 【1/27】[会社] 武漢への出張者・出向者の有無の調査を始める。各事業部門でも自主判断で中国出張の取りやめが始まる。
  • 【1/27】[中国政府] 国民の団体海外旅行禁止、1/30終了予定だった春節休暇を2/2まで延長(=企業の再開禁止)を発表。
  • 【1/31】[会社] 人事部門から、中国現法の営業開始は原則2/10から、2/9までは中国全土へ出張禁止、出張者が帰国した場合は2/9まで自宅待機+健康チェック、の指示が出る。


 以下が中国工場で春節が延長されて再開に至るまでの流れ。
 前提知識として、中国には「経済技術開発区」(単に開発区と呼ばれる)が全国に2500箇所ほどあって、改革開放政策の一環として1984年から開始された制度で、外国企業が多く進出している。この工場も開発区の一つにあって開発区からの指示を受けている。

  • 【1/28】春節について中央政府は2/2、省は2/9、開発区は2/8まで延長とバラバラの通達が出される。少なくとも2/8までは休業とすることを決定。市内は混乱もなく通常通りだがスーパーから冷凍食品が一気になくなる。
  • 【2/7】工場の日本人スタッフが日本総領事館、開発区、商工会から情報収集を続ける。2/10操業再開を目指して翌2/8に開発区へ操業開始申請、2/9に結果を貰う予定。同開発区内で無断で操業再開した会社が密告によりペナルティを受けたという情報あり。幹部社員は対応のため出勤を開始。
  • 【2/8】申請手続きを実施。実は操業再開のためには3つの監督署から許可を受ける必要があると判明(道路・敷地の管理局、消毒等対策の管理局、全体の体制の管理局)。2/9に監査を受ける予定。一部外注先(別地域)で「区内で罹患者が発生したため操業開始が2/10から17に延期された」との報告があり。市内でも団地内で罹患者が出たら団地ごと封鎖される措置が始まっており、患者が出た場合はいきなり操業停止になるリスクがあるという認識を持つ。
  • 【2/9】監査は実施されず。開発区からは「正式な通知を出すため待機せよ」との連絡のみで理由は不明。同開発区と近隣の開発区でも操業許可を受けている企業は無し。2/10からの再開はなくなった。日本総領事館からは「全般的には2/17移行の本格再開」との情報あり。
  • 【2/10】市内の一般企業(開発区外)は2/15から再開との通知が出る。他の開発区では操業再開の条件に「従業員数×2枚/日×5日」分のマスクの備蓄が必要との情報があり、確保に動く。消毒液や食堂の対応などが監査に向けて必要なため進める。
  • 【2/11】開発区内の別の会社は監査を受け、明日から操業開始となる。開発区に「うちの申請内容に不備があるのか?」と確認したが「不備はない。指示を待て」との回答のみで、なぜ隣の会社だけ許可が下りたのかは不明。その会社を通じて開発区に対して、再開の必要性のロジックを組んだ上で圧力を(効果があるかは不明だが)かける。
  • 【2/12】開発区より翌2/13に監査実施の連絡。2/15操業再開見込み。開発区の意図としては人を分散させるため操業再開の日程を4回に分けることにしたらしい。人口密集度を下げるため操業再開後も出勤者数を7割に抑制するよう指示が出た。監査では従業員の移動の管理と共用区域の消毒(とルール)の徹底がポイントと判明。市外に出た人は1週間、省外に出た人は2週間の自宅待機が義務付けられる。(共産党本部の指示により、罹患者が発生した場合の操業停止は以前よりは緩和されており、経済活動と公衆衛生のバランスを考慮しているとの情報あり。)
  • 【2/13】監査実施。
  • 【2/15】操業再開。


 そんなわけで当局の監査を受けて操業が再開された。一方で別の省にある外注先では、特に監査を受けたとかもなく、人の移動制限もなく、春節明けから普通にフル稼働した、という報告もあって、地域によって対応がだいぶ違うのかもしれない。(子会社のある省も、武漢のある湖北省と隣接はしていないが……)


 こういう形で当局が制限をかけてくるんだなとか、情報収集のチャネルってこういう種類があるんだなとか、日々状況を伝え聞きながらすごく興味深かった。国や当局としても、感染拡大は防ぎたいけど、経済活動を一切停止してしまうとそれはそれで国民生活に影響がでかいので、そのバランスをどれくらいで取るのかはかなり悩ましいところなんだろうなと思った。
 こういう状況で中国国内で対応にあたっている人達のことは本当に頭が下がるような気持ちになる。会社からは中国への出張制限がかかってるのに、中国国内に赴任している人達には「頑張ってね」なのは、ちょっとなんか、不公平だなという気持ちにもなった。