やしお

ふつうの会社員の日記です。

杉山春『ルポ 虐待』

https://bookmeter.com/reviews/94986133

「シングルマザーが子供2人をマンションに放置し、自分は外で遊んでいるうちに餓死させた」事件の本。一見「母親であることを放棄した結果」に見えるが、実は真逆で「母親であることに縛られ続けた結果」だった事実が浮かび上がってくる。周囲に「お前がやるんだ」と言われて、「自分がやらなきゃ」と思い込んでしまうと、やれなくて困っても助けを求められなくなる。「ちゃんとやれていない」自分に耐えられずに現実から目を背けてしまう。そして破滅的な結果に至っていくプロセスが描かれている。



 ただ一方で、この母親を突き放してしまった周囲の人々(家族など)の気持ちもわかるのがつらい。自分なりに救おう・許そうと思って何度もチャレンジして、本人も「ちゃんとやる」と言って信じたのにまた裏切られるのを繰り返されると、もうしんどくて耐えられなくなっていく。突き放して厳しい環境におけばちゃんとやるかも、と考えてしまうのもわかるし、しょうがない。サポートのプロではない「周囲の人々」にそこまで期待するのは難しい。


 ヒヤリ・ハットのハインリッヒの法則と同じで、似た環境・状況に追い込まれて「たまたま」子供を死なせずに済んでいる女性も大勢いるのだろうと、本書を読んでいると思わせる。
 あとしばらく前にチュート徳井国税申告漏れを起こして、その原因について会見で「自分の想像を絶するルーズさ」と釈明したのをふと思い出した。重要事になるほど正面から受け止められなくなってしまう。