会社で部署異動になって5ヶ月超が経った。経験のない業務分野で係長クラスになっている。
今まで会社勤めをしていて、業務内容に特にこだわりもなく、それなりにやれてきたから、まあ大丈夫かと思っていたけど、あまり大丈夫じゃなかった。結構つらかったし、割と嫌な気分になっていた。(今は割と大丈夫。)
どの辺が辛かったかとかメモに残しておこうと思って。
異動前
大手メーカーに新卒で入社して15年ほど勤めている。
前の職場(比較的製造現場に近い技術系職場)では、4年ほど担当者として働いた後、係長ポジションになって4年ほど働いた(係のメンバーは10名弱)。
異動
同じ事業部門の中で別の課に異動した。異動先の課の業務内容は、漠然とした理解しかなかった。
30名程度の課で、25名の係の係長をしろとのことだった。もともと課の管掌範囲が広いこともあり、十分にマネジメントが機能しておらず、その辺りを助けてほしいみたいな話だった。
係の中に5つチームが存在し、チームリーダーがいる(自分の異動と同時にそのように再編される)という説明だった。
個人的な係長感
「係の中のリスク管理」が係長に基礎的に要求される仕事という認識で、前の職場ではやっていた。およそ以下のような感じ。
- 係内部で起こっていること(メンバー全員の状況)を正確に把握する。
- 上位レベル(課・部・事業部門)の目標を、担当者レベルの粒度に分解する。
- トラブル時等、必要があれば担当者に変わって対処する。
- 上記のために係長は実務を理解する必要がある。
- メンバーがムリ・ムラ・ムダなく働ける状態を実現させる。(複線化や省力化)
- リスク管理は、リスクを取る(それ以上やらない/完成度を捨てる)ことも含む。リスク低減で「念のため」の業務を増やすとメンバーが疲弊し、トータルでのリスクが増大するため。
よく「リーダーは組織の方向性を明示してメンバーを導くものだ」と言われる。リスク管理が仕事と言うと「リーディングをやれ」と言われそうだけど、係長レベルだと結局は↑のリスク管理でほぼイコールになるから、いいんだと思っている。
どっちみち組織全体の方向性は上位目標で定められていて、その上位目標との調和がリスク管理の大前提になるし、かつ長期的なリスク低減を目指せば組織の持続可能性の維持(メンバーのキャリアやグループの成長を考えること)とイコールになる。
あとリーディングとマネジメントの両者が必要だとして、そもそもマネジメント(リスク管理)ができた上でリーディング云々の話だろう、という理解。(管理者ならふわふわしたこと言ってないでまず足元をしっかり管理しろ、という気持ち。)
基本的には↑の認識から、前の職場ではある程度それが維持できていたかなと思っている。
やりにくさ
上記の係長感を持ちながら、異動後は以下のような要因で十分に実現できていない、やりにくいと感じている。
- 実務能力のなさ
- 管掌範囲と組織体制の不一致(リポートラインの不明確さ)
- 裁量の狭さ
実務能力のなさ
異動前に、異動先の課長との面談で「2~3ヶ月程、実務を経験させてほしい」とお願いしたが否定された。「実務を担当するとそれに忙殺されて、マネジメントができなくなってしまうから」という理由だった。
これは現状のマネジメント層が、個別事案に忙殺されてマネジメントができなくなっているという実情・課題認識から来ているのかと思う。
異動後に「とりあえず出てみて」とのことで色んな会議にせっせと出席してみたものの、当初は本当に「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにします」って聞こえるみたいな感じ。入社したての頃を思い出してちょっと懐かしかった。
分からない用語をひたすらメモして、前後の文脈や他の場面で聞いた内容から意味を推測したり、わかりそうな人に後で聞いて、という(新人のときと同じ)作業を繰返して多少は理解が進んだ。
あとは課内業務の説明や、個別テーマの教育もあった。
ただOJTの指導者(質問する相手)が設定されておらず、その代わりに課長本人が「わからないことは聞いてね」という感じだったが課長も多忙で気軽に聞けない環境なのは、少しやりづらさがあった。担当者としての異動でない辛さかと思う。
マニュアルが細かく整備されているわけではなく、基本的には「やって覚える」「見て覚える」の世界なので、実務を経験しない+指導者が明示的にいない中だと、用語を理解しても自家薬籠中の物にするのが難しいと感じた。
実務が分からないと潜在リスクを正確に取り出すのが難しい。
管掌範囲と組織体制の不一致(リポートラインの不明確さ)
課内の業務種別として、A業務、B業務、C業務、D業務(Dは改善・仕組み・インフラ整備系)とおよそ4種類ある。
係1がABC業務を担当(25名)、係2がD業務を担当(5名)という構成で、自分は係1の係長になっている。
係1の中に5つチームがあり、C業務は1つのチームとして独立しているが、残り4チームはAB業務が混在している。またAB業務には国内担当/海外担当という区分もあるが、それでチームが分かれているわけでもない。
チームリーダーがA業務担当で、チームメンバーにB担当の人がいて、その業務管理をしようにも、リーダーはA業務しか詳しくないので、ただヒアリングするしかなく判断ができない、といった状況が生じている(文句が出ている)。(これはちょうど自分の「実務がわからない」話とも近い)
課長は「以前は業務別に分かれていたが、縦割りで課内のコミュニケーションに課題があった」とごちゃ混ぜスタイルにした意図を説明している。
課と係1の規模がほぼ同じで、課長と係長1(私)の管掌範囲がほぼ重なっている。さらに課長と係長の間に課長補佐のポジションも存在しているので、リポートラインが不明確だった。
3ヶ月ほど経って、課長が管理者4名(課長・課長補佐・係長2名)の分担を再定義してくれた。AB業務の海外分は課長、ABの国内分は係長1(私)、Cは課長補佐、Dは係長2という割り振りで、管掌範囲が明確になり、重複が解消されてやりやすくなった。
ただ組織体制はそのまま据え置かれているので、係長1(私)は「ABの国内分が管掌範囲だが、形式的にはABC全てを管掌している」矛盾状態にある。
裁量のなさ
これは課長のスタイルと、上記2つの課題に起因するところ。
異同後、課内の複数の人から「課長に相談しても解決しなくて相談するのをやめた」という話を聞いた。異動前にその課長を外から見てる分にはそういうタイプに見えなかったから意外だった。
実際に異動して確かに、と思った。ある程度結論まで固めて課長に相談を持ち込んでも、急激にふわーっとして結論が曖昧になって終わるケースが多い。「それだけじゃなくてこういう課題もあって何とかしたいよね(ちょっと考えてみてくれない?)」と言われて、確かにそれはそうだとは思いつつ、アクションを取るのに時間がかかる。
「暫定策を取った後、恒久策を取ればいい」価値観より、「どうせなら一石三鳥をやりたい」価値観のようだった。「完成度3割でも0よりマシ」ではなく「これだと全体の7割ができてない」という価値観のように私からは見えている。
完全にコントロールするか、指定範囲をフリーハンドでやらせてくれればいいけれど、「自分で考えてほしい、でも方法には口を出す」だとつらい。
「マイクロマネジメントは良くない」という認識と、適切な粒度に分解する能力の不足が同時に存在すると、「手順に口を出すがどうするかは言わない」行動様式になるのかもしれない。
整理整頓があまり得意なタイプではなさそうで、そのことが、適切な粒度でタスクを分解するのが不得手なことともリンクしているのかもしれない。粒度が適切でないタスクを相手に渡してしまうと、出力された結果が不十分なので、口を出さざるを得なくなってしまう。
これも、私自身の実務能力が十分にあれば、課長の「気になる点」を先回りして潰してある程度解消できる。あるいは管掌範囲と組織体制が一致していて、課長とのすみ分けがきちんとできていれば「口を出さずに任せる」ができる。課長の個人的スタイル(価値判断)の問題だけではなく、先の2つの課題とも関連する。
課長に対する思い
とは言え、課長が「こうしたい」というときは(自分の価値観と多少違っても)、なるべくそれを実現させたいと思っている。逆に自分が課長だったら、係長が支えてくれずに、ひたすら方針に反対するだけならめちゃしんどいだろうし。
あと今の課長は、コロナ禍等で生産が非常に混乱し業務量が激増して、前の課長がメンタル不調で離脱した後、課長を引き受けてくれた人で、その点はみんな感謝すべきだろうとも思っている。「火中の栗を拾ってくれた人」にリスペクトもせず文句しか言わないのは、あんまりだ。
よく「仕組み化までしたいよね」「人に依存せず回したいよね」と言われる。個人的には(泥臭くてもいいからまず今あるヤバいもんをキレイにしてからの話では)と思うが、そうして暫定策を積み重ねてきた結果、今の課がバタバタし続けてきたので、それを何とかしたい、というのは理解できる。「暫定策より恒久策に目が行く」のも、こうした苦しみから来ているのかもしれない。
この辺の自身の特性や課題を本人も認識されていて、でもできない(ジレンマがある)と感じている様子なので、少し同情的な気持ちでいる。
上司とかって、そりゃ完璧にこなしてくれれば最高だし、下の人達は「そのポジションである以上はちゃんとやれ」って突き上げがちだけど、結局は本人のやれるようにやるしかないんだと思っている。
給料だって突き抜けて高いわけでもないのに、業務量は多いわ、矢面に立たされるわ、本当に大変だと思う。
根本的・構造的な課題
より根本的には、課の管掌範囲がそもそも広過ぎるのが問題だと異動してつくづく思った。ABC業務それぞれで別の課でもおかしくない。事業部門の中には5名程度の課もある中で、30名いるのも多い。
管掌範囲が広くても、課長は一人しかいない。何かあった時に上位から求められる「課長が把握してる深さレベル」は変わらない。振ってくる案件を振り分けて、結果を確認する作業だけでも幅が広ければ負荷が高いし、会議やメールも多くなる。
一人の人間が見られる「体積」は多少の個人差はあってもおよそ一定なのだと思う。見ている面積が広ければ浅くしか見られない(管理者)し、見る面積が狭ければ深くまで見られる(担当者)。
管掌範囲が(他の部署と比べて相対的に)広過ぎれば、より浅くしか見られないはずなのに、一定の(他の課長と同程度の)深さレベルまで見ることが要求されるので課長は疲弊する。何かトラブルや炎上が起きて、課長が担当者に近いレベルの深さで対処している間は、どうしても他のエリアへの手が回らなくなる。
課長は「課長・課長補佐・係長×2の4人を横並びにしたい」と言っていたが、他の人に課長レベルで見てもらわない限り回せないという認識も当然だと思う。
課の管掌範囲が広過ぎるので、一部業務を別の課に移管するか、課を分けるかしたい、とは課長も言っていて、部長にも相談はしているらしい。
そうだとすると、やはりABC業務(特にAB業務)がまぜこぜになった組織体制よりかは、分業して「いつでも独立できます」の形にしておく方がいい気もする。特に担当者個人の業務範囲がまたがっていると「そうは言っても今すぐは分けられない」と分離のハードルが上がってしまう。
前の課にいた時は「課長をやれと言われても引き受けられるように準備をしておきたい」と思ってやっていた。しかし今の課だと断りたいと思っている。一度断ると、もう機会が得られなくなる恐れがあっても、精神衛生の方が大事だし。
休日もメールの処理に追われ、あまりに広い範囲を面倒見なくちゃいけなくて、見切れないせいで課員の不満は溜まり、事業部門のトップからは厳しいことを言われて、しかも残業代がなくなってさして収入が上がるわけでもない。
「大変そうだけどやりがいがありそう」のバランスが取れておらず、係長クラスの人が「課長になるのは断りたい」と思っているのは、健全じゃないなとは思う。
過ごし方
さすがに「仕事してない」「役に立ってない」だとあまりに心がつらいので何かしてる。
自分の現スキルでやれそうな(かつみんな拾わないけど放置すると危ない)業務をとりあえず引き取ったりしていた。ABC業務がメイン業務、D業務が改善・仕組み・インフラ整備系(突然トップダウンや共用部門から降りてくる改善対応など)で、自ずとD業務を引き取る感じになった。ABがらみの業務も、全体の進捗整理や特定のトラブル対応はしていても、比率としてはD業務が大きい。数か月経つとそれだけでひどく忙殺されている。
自分はABC業務の係長だけど、管掌範囲はAB業務(国内)で、でも実際にやってる業務はD業務、という齟齬だらけになってしまった。(逆にD業務の係長がAB業務の範囲をカバーしていたりする。いっそ自分はD業務の係の一担当者にでもなった方がいいのではと思うこともある。)
「課長に報告しても差し戻される」があるとしても、自分のところに上げられた課題を改善しないと、メンバーも「言っても無駄」になってしまうので、担当の割り振りを変えたり、ニーズがない業務を廃止してみたり、業務を他部門へ移管したり、細かいところで勝手にやったりはした。(課長には事後報告で伝えたりしつつ)
つらかったポイント
- アドバイスができない
- 係内の情報が係長に集約されない
- メンバーが相談を自分ではなく課長に直接する。(実務能力不足+リポートライン不明確による)
- 「係長なのに係の人の相談相手になれていない」「起こってることを知らない」のはつらかった。
- 特に異動前までは「グリップできてる」「自分の判断でやれてる」感があったのが、急にこの状態になってギャップが大きかったのもつらかった。
- 自分なりに情報収集・整理して報告しても、課長の方が最新情報を握っていて、その場で否定される。自分の存在意義がないと感じる。
- 係長として本来やるべきことを放っておいて、他業務に油を売ってるのは、背信行為みたいだと思うと、つらくなってくる。
- 自分の適応スピードが遅い
- 既に30代後半で業務経験も積んでいるので、新環境にも早く適応できるか試したいと思っていた。
- 別部署から横滑りで課長になる例も多々あるし。
- しかし実務能力の不足や、管掌範囲の齟齬などの(とそれを乗り越えて強引にやる根性までは自分にはなかった)ために、思っていたレベルでできず、自分で自分が「たいしたことない」と感じて悲しくなる。
- 会議・メールが多い
- 会議や打合せが平均的に6時間以上毎日入る。メールも100~200通/日くらい。十分な作業時間が取れない。
- 今の部署が調達先や他部署から情報収集して対応するのが基本業務なのと、管掌範囲が広いため。
- 残業が増えるとしんどくなる。
- 製品を触る機会がない
- 入社以来、品証部門や技術部門にいて、1週間のうち1度も製品に触れずに過ごすことがなかった。今は完全に事務作業。
- なんか地味に嫌なんだなと気付いた。物理的に何かをやってると心が和む面もあったんだなと思った。
- あと工業高専出身で、「エンジニアになるべし」みたいな学校だったのに、「ついに自分はエンジニアでは完全になくなってしまった」と思うと感慨深い。
「自分は大丈夫」と思える日と、「ああ本当に嫌だ、しんどい」という日との落差が大きかった。会社に行くのもだいぶ嫌になっていた。特に異動から1ヶ月後くらいは、別の部署か元の部署への異動をお願いするか、会社を変えたいとさえ思っていた。自分でも「ちょっと危ない」と感じた。
心の慰め方
自分の能力や努力が足りないと思うとつらいので、「この自分を上手く使ってくれない方が悪いんだ」と思って自責と他責のバランスを取った。両方事実で、組織デザインが悪くて動きづらいのは上司のせいだし、それを乗り越えてでもやれないのは自分のせいだし。
関係ないけど、享保の改革で有名な徳川吉宗だって、自分を引き立ててくれた老中が全員死ぬのを待ってから改革を始めてるし(倹約令だけ進めつつ老中の権力を削いだりしてた)、吉宗でさえ好きにやりたければそのタイミングを待ってたんだから、まして将軍ではない自分が「自分が思うあるべき形」とのギャップをそんなに気にしたってしょうがないじゃん、と思うようにした。
他の色んな係長や課長ポジションの人達を見てきた限りでも、マネジメントをしっかりやってる人ばかりでもないしとも思って、まあいっか、と心を慰めている。
あとプロパーじゃなく外から横滑りで係長になるのも、元からいる人にしてみれば「なんだ」感はあるだろうし、ちょっと居心地の悪さはあったけど、数ヶ月経つとお互い慣れてきたのも、多少心が落ち着いている要因になっている。
改善のきざし
異動から3ヶ月ほど経って課長から「実務を理解した方がいいと思うので、B業務の比較的負担の大きくない領域を担当するように」との指示があった。(それ異動前に私がお願いしたやつ!)とはちょっと思った。
既に自分の抱えている業務に追われて、実務の引継ぎ・学習に十分時間が取れない。とはいえ実務を理解する必要があるとはずっと思っていたところなので、その指示があって良かったし、ようやくその理解が進みつつあるところ。
あと自分自身が抱えているD業務も、Dの係に移せそうな気配もあり、ようやくAB業務に集中できそう。
管理者4人(課長・課長補佐・係長2名)の管掌範囲が再定義されたタイミングで、再定義に合わせた係の再編も課長にお願いしていた。検討には同意してもらえたが、「せめて1年間はこのままで」とのことで絶望的な気持ちになったが、朝令暮改が嫌だという気持ちも理解できた。
ただ最近になって課長から近いうちに変えたい、機能別でなく混ぜこぜにしたのは欲張り過ぎた面があった、とのことで、管理者4名で相談を始めることになってよかった。
課長も「どうするのがいいんだろう」と本当に悩みながら、当初の自分の考えに固執せずにやってもらっていて、ありがたい。
やりづらさの要因3つのうち、「実務能力のなさ」と「管掌範囲と組織体制の不一致」に解消のきざしが見えつつあり、前者2つに起因する「裁量のなさ」も改善されるかもと思っていて、今はそれなりに希望を持っているところ。
ライフイベント法(ホームズの社会的再適応評定尺度)という、ストレス度を評価する手法がある。「仕事上の責任の変化」は、転職より低いが、就職よりは高い。「1万ドル以上の借金」(これは住宅ローンとかではない借金だと思うが)や「親戚とのトラブル」と同程度だという。
https://www.niph.go.jp/journal/data/42-3/199342030005.pdf
これは、「中年の会社員が、職務が変わってストレスを受けた」という非常にありふれた話かと思う。
ただ自分自身がなってみたら、結構しんどい、これメンタルやられるやつだ、と思ってなんか新鮮だった。危なかった。
もう本当に、自分の心身の安全を第一に考えて、残業を増やさない、ちゃんと睡眠を取る、読書・映画鑑賞などの時間を取る、適度に他責思考にする、そうは言っても自分はまあまあやれてると思うことにする、など気をつけてぼちぼちやって行きたい。
↓は投げ銭代わりの設置。お礼しか書いてない。