電車で年寄りや小さな子供に席を譲ることがままあるけれども、それは相手のことを慮った親切心などでは別になく、ただ居心地の悪さに耐えかねたという専らこちらの側の――この際通俗性というか制度性のことはおくとして――問題による。
プールで泳いだ帰りの電車で、そばに老女が立っていたため私は無言で席を立った。
老女は「いや、いいんですよ」と私に向かって言った。
私は「いえ、大丈夫です……」と答えるのみであったが、その実、
「あなたは私があなたのために席を譲ったとお考えのようですが、それは大きに見当違いというものであって、私はただ、私がそうしたく思ったために席を立ったのです。その後空席に誰が座ろうと――あなたがそこに座ろうとどうしようと、知ったことではありません。ですからあなたが、まるで私が席を譲ったかのように仰るのは不当です」
と言いたくあった。
少し長いのでかいつまむと
「べ、べつにあんたのために席を譲ってあげたわけじゃないんだからね!」
となってツンデレじゃねえかよ死ねよ。