やしお

ふつうの会社員の日記です。

ジェレミー・ヴィンヤード、ホセ・クールス「映画技法完全レファレンス」

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/6251404

この本で最も面白かったのは巻末の著者プロフィールだった。執筆者「ヴィンヤードはライターであり熱心な映画研究者でもある」ただのファンかよ。「劇場用映画の監督という自身のゴールを目指して努力」「クリエーティブな分野で啓蒙活動ができることを願っている」一方イラスト担当は「彼のフィルムメーキングへの情熱は、自身のアートへの情熱に勝るとも劣らないものだ」「ホセは今後も映画製作の現場での仕事を続けていきたいと考えている」お前らの願望なんざ知るか! こんなつまんない本を書いてるからお前らはダメなんだ!

 確かにただ物語を追ったり、ただ生理的な反応が起こる愉しみに終始しているよりかは、実際の画面の動きそのものへと意識が広げられるのは、映画をより掬い得るだろう。本書はそれをいくらか手助けしてくれるかもしれない。それでも本書がひたすら退屈でいささかも刺激的なところがないのは救い難い。例えばリョサが『若い小説家に宛てた手紙』で見せた小説の技法に関する分析はいくつかの実作に即して本書よりはるかに高度で刺激的だったし、何より最終章「第十二章 追伸風に」で「テーマや文体、秩序、視点などに分類して考えるというのは生体を解剖するのと何ら変わるところがありません。それがうまくいった場合でも、結局のところ小説を殺すことにほかならないのです」と分類の限界を適切に把握してみせる誠実さを知っている我々としては、とても本書を擁護する気にはなれないのだ。