やしお

ふつうの会社員の日記です。

スマイル$∞のマックを体験した

 ニューヨークで夜にマクドナルドいったら(やっぱり)店員が不愉快の極みみたいな態度で働いてた。注文の遅い客がいるときは、レジを上からがっとつかんで、ギラギラの爪した指でカタタン、カタタンと音を立てながら、客を上から睨み付けて(女性だけどでかい)威嚇してた。レジ以外の店員もきびきび動いてるけど客には無愛想だった。店員同士は楽しそうにしゃべってる。
 一店舗だけ、一回だけしか行ってないから店によっては、あるいは時間帯によってはもっと和やかなのかもしんない。
 ただそのときは、日本のスマイル¥0なんて夢のまた夢、彼ら$∞だったよ。でかいし怖いし。


 でもそれが普通なんだと思う。だって給料低いんだもん。不機嫌さ全開で接客すればいいよ。
 例えば個人の思想で「どうせ同じ給料もらって同じことするんだったら、楽しいことだと思ってやった方が自分にとって得だし楽」と考えてそうするんだったらいいな。(その方がいいとぼくも思ってるしね。)
 実際ドラッグストアとか行ったら、無愛想に仕事してる人もいたけど同時に、ヒーァウィゴォーウ!とか言いながらノリノリで客をさばいてる店員もいた。好きなようにしてた。


 本人の思想に従って、そのスタイルで接客した結果がスマイル¥0だったならいい。でもそうじゃなくて、世間の圧力を先取りして店が「笑顔で接客せねばならない」という思想を押し付けてて、(こんな時給でこんな忙しいのにその上無理して笑顔とかやだな)と思いながら笑顔つくらされてるバイトがいたらつらいよと思って。
 メニューに「スマイル¥0」って書いておいて、なのに店員の時給は+¥0っていうのはひどいよ。スマイル代を店員の自腹で出させるんじゃない!


 たしかに店員の態度レベルをあげたい、そうゆうポリシーの店にしたいってのはあると思う。でもそれを押し付けるのなら、押し付け相当の賃金を払ってからだと思う。時給が1400円(日中)以上の職業については気持ちいい態度で働かせてOKだよってくらいにしてほしい。客の方もそのつもりになれば、とても気が楽になる。




 ただニューヨーク遊びにいった感想からするとやっぱり、賃金とか関係なくそもそも「店員は感情に左右されず、一定の態度で客に接しなければならない」、みたいな世間相互圧力から派生するイデオロギー自体が希薄だった。


 地下鉄で事故(なんか煙の臭いがし始めて消防車いっぱいきた)があって下ろされたときに、乗客のおばさんがブチ切れてて、でも駅員のおばさんもそれ以上になぜかブチ切れてて、ブースのガラス挟んで大声で二人で怒っててすごかった。
 日本で人身事故で人が死んでるのに電車遅れて怒ってるおじさんとかにはこのおばさん駅員とほこたてで対決してほしい。おれ絶対ババア勝つと思うもん。


 あとファーストフードやドラッグストアのレジだと客が自分でクレジットカードを端末に通すようになってる。それでカード切ってもうまく読み込まれなかったりすると、「オーゥ……」とか言って首を振られたりする。最初(わわっ、おれがトロいから呆れてるんだ……!)と思って焦ってたけど、何度も遭遇するうちそうじゃないんだと気づいた。
 いっしょになって同情してくれてるんだ。感情をあらわにして、残念だったね、って。
 これ、日本だったら(それは何でもないことなんですよ、私は何も気にしていませんよ)という感じでお互い特別な感情をあらわしたりしないんだよな。そういう社会で暮らしてたのに、いきなりそうじゃない「普通」を突き付けられてちょっとスリリングだった。


 仕事は仕事、感情は感情って切り分けがきっぱりあるらしい。




 これね、
 ほーら見ろ、欧米はやっぱ個性の尊重された社会! 日本は没個性だからダメーっ! とか言いたいんじゃない。有利不利ある。
 日本式世間様システムの方が、ある種の高度な洗練に到達しやすそう。鉄道ダイヤも精緻の極みみたいな感じだし、和算とかPixivとか部活とかお金もらってないアマチュアでさえ異様なレベルまで高められる。そのかわり息苦しいってだけのことだ。


 お互いに世間を内面化して自己を抑圧する、相手が望んでいる自分を先回りして実現しようとお互いにしていけば、洗練に向かうし、小さい衝突も減ってどんどんスムーズになってくってメリットはある一方、息苦しいのと、いざ衝突が発生すると大衝突になるって点がある。


 スマイル$∞を実際に体験してみて、スマイル¥0はたしかにささくれがなくなっていいけど、息苦しいよな、それを要求する方もぐるっと回って息苦しくなるしね、と改めて思っただけだよ。