やしお

ふつうの会社員の日記です。

植物、昆虫、哺乳類:睡眠の発展

 粂和彦の『時間の分子生物学』に出てきた昆虫と哺乳類の睡眠のシステムの違いに関する話が面白かった。


 ハエにも人間みたいな睡眠はあるのか? 夢を見たりするのか?
 ハエにもどうやら睡眠「のようなもの」はあるらしい。実験で観察すると、動きをとめてしばらくじっとしている時がある。その間、刺激に対する反応も鈍る。しかし人間みたいに直接脳波を測定するのは難しいから、人間のように眠っているのかどうかはわからない。


 少なくとも哺乳類がこんな仕組みで眠っているのはわかっている。哺乳類の脳の中には、覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠のそれぞれのスイッチ(中枢)がある。スイッチがオンになると、その状態になる。通常、覚醒状態で眠っていたり、レム睡眠やノンレム睡眠が同時に起こることはないので、3つのスイッチのどれか1つがオンになっている。哺乳類にとっては、起きている=覚醒中枢がオンになっている状態、眠っている=レム睡眠中枢orノンレム睡眠中枢がオンになっている状態。
 3つのスイッチの全部がオフになっている状態も存在する。たとえば麻酔がかかっているとき。これは、意識はないけど眠っているわけでもない、という状態になる。
 ハエが「眠っているように見える」状態というのは、このような状態だろうと著者は考える。昆虫の脳には覚醒中枢はあるが、レム睡眠中枢、ノンレム睡眠中枢はないと考え、覚醒中枢がオンのときは起きているし、オフのときは「眠っているように見える」状態=麻酔をかけているのと同じような状態(これを著者は「原始睡眠」と呼ぶ)。
 従って、昆虫に睡眠があるのか否かという問いに対しては、哺乳類のような睡眠は持っていないが、「原始睡眠」と呼べるような睡眠は持っている、という答えになる。


 ところで、そもそも何のために睡眠は生じたのか。
 昼と夜で大きく環境が変わるなかで、ある生物にとって夜は餌が少なく、かわりに外敵に狙われる可能性が高い(夜行性の生物にとってはこの事情が逆転する)。夜に活動するメリットが少ないため、必要最小限の機能だけ残して停止させた方がエネルギー的にも得である。また外的な刺激にいちいち反応して音を立てていたらかえって天敵に見つかる恐れも大きいので鈍感である方が有利だ。こうした理由から、活発に動いている状態と、じっとして動かず、刺激に対する反応も薄い状態の二つができた。
 もともと生物は概日周期(だいたい24時間の周期)を刻む時計を持っていたから、そこに覚醒のスイッチを追加することで、起きている/起きていないの1日単位の周期的な繰り返しを実現した。
 高等生物ではこれをさらに有効活用させている。脳を休めるノンレム睡眠、脳の中で別の処理(整理とか)をするレム睡眠に分けて、それぞれに機能を持たせている。


 まとめるとこうなる。植物レベルでも概日周期中枢を持っており24時間の周期はわかる。昆虫レベルはそこに覚醒中枢をプラスして覚醒状態/非覚醒状態を1日の中で繰り返せるようになった。哺乳類レベルではさらに睡眠中枢をくわえて、機能的な「眠り」ができるようになった。


※ちなみに本書の主題である生物時計、概日周期については、植物レベルどころか原核生物単細胞生物の中でも細胞内にはっきりした核を持たない原始的な生物。細菌とか)にさえ備わっているとのこと。


時間の分子生物学 (講談社現代新書)

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