やしお

ふつうの会社員の日記です。

入院の費用・持ち物・過ごし方のメモ

 コロナと無関係に、全身麻酔の外科手術のため1週間ちょっと入院した。入院も手術も初めての体験だった。自分用のメモ。


月またぎの入院は損

 「月をまたいだ入院は損で、スマホやゲーム機を買えるくらいの金額の差が平気で出る」と知らなかった。高額療養費制度が月を基準に計算されるため。計算方法などは↓の記事が分かりやすかった。
  月またぎの入院は損!高額療養費制度「自己負担が増える」落とし穴 | 知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴 | ダイヤモンド・オンライン


 緊急の手術ではなく、仕事の都合なども考えて半年ほど前に入院時期を設定した。月の最終週に入れたため、月をまたぐことになった。入院直前に病院で説明を受けて初めてそんな制度があることを知ったが、もう時期をずらせない。最初から漠然とでも「なんか時期によって損得があったような気がする」と覚えているか、周りに知っている人がいないと気付くのは難しい。
 突発的な事故や病気で時期のコントロールができなければどうしようもないが、調整できるなら月をまたがないように気を付けたい。


 ちなみに高額療養費制度は、「自己負担が一定額を超えたら、計算式に従って安い額で済むようにしてくれる」制度で、事前に申請すれば退院時の窓口負担を最初から減らしてくれる。ただ会社の健保組合のHPを見たら「事前申請しなくても健保組合に来た明細を見て、オーバーしていたら差額は後で勝手に(申請不要で)給与と一緒に振り込んでおく」となっていたので、特に何もせず退院時に自己負担3割の金額を払ってきた。
 病院がクレジットカード払いに対応していれば、事前申請せずに窓口でたくさん払っておいて、あとで給与と一緒に返金された方が、ポイントがいっぱいついてお得かもしれない、とちょっとセコいことをふと思った。


 色々助けてくれる制度があっても「そういう制度がある」を知らないとどうしようもなかったりする。それを事前にキャッチするのはなかなか難しい。


費用

 高額療養費制度の適用前=3割負担でも、手術・入院費用を1日平均にしたら1万9千円くらいだった。ネットの記事でも「だいたい2万円前後」と書かれていたから相場なのだと思う。
 毎日3食が自動的に目の前に出てきて、日に数回のメディカルチェックも受け、薬も出してもらえて、手術まで受けて1日2万円弱かと思うと、国民皆保険のありがたみよ、と思う。
 逆に言うと国民皆保険制度がない国で、医療保険に入っていなかったら、この経済負担(1日6万円強)に耐えるのはかなり厳しい。「絶対に手術した方がいいとは分かっているが諦める」「どう考えても入院継続した方がいいけど無理やり退院する」は普通に起きるんだろうなと改めて思った。


持ち物

 ググれば「入院時持って行って良かったもの」の記事はたくさん出てくるのでそれを参考にすればいい。後は病院でもらえる入院案内の冊子に必要な持ち物が書いてある。

  • 耳栓:大部屋では必須。入院患者は高齢者が多いが、寝言というより夜中に大きなひとり言を言ったり歩き回る人が一定数いて耳栓なしでは眠ることが難しかった。眠ろうとすると呼吸や身体がしんどくなる人が多いようで、「眠るのが苦しい」はつらいだろうなと思った。
  • フレキシブルネックライト:首掛けで位置調整できるLEDライト。消灯時間が早い(21時半)ので、その後に本を読んだりするのに使った。備え付けの読書灯もあったが隣に迷惑かとも思って使うのが躊躇われた。スマホを見てるだけなら不要かも。
  • 吊り下げフック付きポーチ:無印だと「吊して使える洗面用具ケース」という商品名で出ている。ポーチを開くとフックがついていて、そのまま吊り下げて使える。収納が少ないので整理できて便利だった。
  • イヤホンの延長ケーブル:テレビはイヤホン必須だがベッドと距離があるので、もともと長いケーブルか延長ケーブルがないと厳しい。
  • 全身シャンプー:シャンプー・洗顔・ボディソープをそれぞれ持って行くのが面倒かと思って買ってみたけど、便利だった。ネットの評判も見て、ドラッグストアで普通に買えてかつ体が痒くなりにくそうなミノンにした。しかし小さいサイズがなく別のボトルに移し替えた。
  • キャリーバッグ:42リットルの海外旅行・出張に行くときのやつを持っていった。ネット上では「大部屋だと置き場所に困るため小さいキャリーバッグで」とも書かれていて少し悩んだが、このサイズでちょうど良かった。


 院内の売店(コンビニ)がかなり充実していて、何かを忘れてもそこで調達できそうだった。外来患者もアクセスできる場所に売店はあったから、入院前に軽く見ておいた方が良かった。
 それから1日300円でタオル・パジャマ・ウェットティッシュを日替りで支給してもらえるサービスがあった。荷物がかなり減らせてありがたかった。
 みんなで同じパジャマを着ていると、「入院したんだ」という実感が湧いてくる。あのパジャマを着て、さらに点滴を吊るすガラガラを引きずったりしてると、「入院患者」としてのアイデンティティが湧いてくる。手術前の時点では別に身体は入院前と全く変わらないのに、気持ちは「患者」になっていくから不思議な感じがした。
 部活のユニフォームや文化祭でお揃いのTシャツを作って着るのと同じかもしれない。私にはそういう青春の記憶はなかったから、今青春を取り戻そうとしているのかもしれない。


面会

 コロナ対応もあり面会禁止だった。入退院時の付添い・手術中の待機だけは許されていた。手術中は何かあった場合の説明・意思決定のために家族が院内で待機するよう要求されていたようだった。調べてみると病院によっては「手術中も院外で待機してくれ」という方針のところもあるらしい。
 物品の差入れ・引取りは受付を通せば可能だったが、1週間強の入院で特に必要はなかった。
 コロナ以前での入院経験がないため比較はできないが、人の出入りが少ない方が静かで良いかもしれない。病棟内での窃盗がそこそこあるらしいが、セキュリティ面でも良さそう。
 面会はできなかったけれど、自宅にいる家族(パートナー)とは都度LINEで連絡を取っていたし、毎日30分ほど電話で話をしていたから、特にさみしいとかもなかった。


部屋

 個室を希望していたが、空きがなく大部屋(4人)だった。コロナ病棟もある総合病院で、それなりに混んでいるようだった。


 各部屋ごとにトイレと洗面所がついており、一人あたりの空間には

  • ベッド
  • テレビ・金庫・冷蔵庫・テーブルが搭載されたラック
  • クローゼット

があった。椅子はなかった。


 隣とはカーテン1枚で区切られているのかと想像していたが、実際には各人のスペースがカーテンで覆われており、隣とはカーテン2枚で隔てられていた。
 基本的にみんなずっとカーテンを閉め切っているので、同じ部屋の人の顔も知らないし、喋ったこともない。ただ看護師や面会の家族との会話が筒抜けなので、顔は知らないのに氏名や何の病気でどんな手術をするのかといったことだけが分かる。声や喋り方で漠然と顔を勝手に想像していた。たまたま顔を見かける機会があると、想像していた顔や背丈と全然違っていてびっくりする。漫画がアニメ化されて想像していた声と違うのでびっくりする、という現象の逆バージョンだ。顔/声の情報のうち一方が欠けている時に、他方を勝手に想像してしまうメカニズムがちょっと不思議だなと思った。


 「音が筒抜け」なのはそこそこ気を遣う。相手に音が伝わるのを気にして静かに動いたり、あまり動かないようにしてしまう。完全に視線が遮られていてさえこれだけ気を遣うのだから、災害時の避難所で音だけでなく視線も遮断されない状況であれば、もっと気を遣うのだろうと実感を伴って想像できた。大地震の後、車中泊によるエコノミークラス症候群が問題になったことを思い出した。あれだけ気を遣ったり、あるいはその裏返しで他者に苛立ったりするくらいなら、狭くても車の中で過ごしたいという気持ちが、よりリアルにイメージできた。


 自分の希望ではなく途中で部屋を移動した。急に「明日移動になります」と告げられ、理由はよく分からなかった。特に手術後などのキリのいいタイミングでもない。他の人もどこかから移動してきたり、どこかへ移動していたから、何か管理上の理由だろうと想像している。入退院もあり、部屋のメンバーはそれなりに流動的だった。


 窓からの景色が良かったので、廊下側より窓側の方が開放感があった。ずっと窓側だったので嬉しかった。12階の病棟からはスカイツリー・東京タワー、みなとみらい、富士山、海沿いの工場群なども見えて、今度入院する時にはズーム倍率の高いコンデジを持って行こうと思った。観光みたい。


健康

 入院していて健康も何も、という話だが、手術した箇所以外は従来と何も変わらない。
 入院する前は階段の上り下りをして体力維持に励もうと思っていたが、階段は非常時以外は開放されていなかった。スクワット、腹筋、腕立て伏せに励んでいたら、退院した後のリングフィット(Switchの運動するゲーム)が少し楽になっていた。
 退院したら体重が2kg減っていた。3食残さず食べていたが、もともと(高齢者向けのため? 運動しない前提のため?)1日分のカロリーが低めに設定されていたのだろうか。しかし空腹は感じなかった。売店にはお菓子も充実していたが、出された食事以外は何も食べていない。


 それから睡眠も改善された。消灯21時半、起床6時だった。さすがに21時半は早過ぎるので、その後に読書などをして23時に眠っていた。「ちゃんと毎日7時間眠れば、日中は眠くない」という当たり前のことが分かった。会社で日中いつも眠いのは、やっぱり睡眠不足だったんだと今さら思った。
 日常生活は「朝起きる時間は(出勤・登校のため)固定、夜寝る時間は自分の意思」となっている。この「夜寝る時間は自分の意思」なのが、結局は睡眠不足の原因になっていて、寝る時間も(起きる時間と同様)外部要因で固定されれば睡眠は改善する。「外部要因」としては「消灯時間」の他に「子供がいて寝かしつける」とかもあるかもしれない。


過ごし方

 入院中は暇かと思っていたが、実際には毎日さっさと時間が過ぎていった。
 本を3冊ほど読んで、受験生向けの英作文の解説・問題集を少しやって、あとこのブログのエントリを2つ書いた。
  経験は「実体験の量」というより「考えた時間」 - やしお
  「ドン」がネットワークのくびれで機能する - やしお
 後者の記事は、情報を集めて整理する作業が多く、いつもなら2~3週間ほどかかるところが入院中は3日で書き終わった。ふだん残業がかさんで余暇が圧迫されると全然進められない。まとまった時間があるとこんなもんで終わるのかと分かって面白かった。


 テレビは1分1円の課金タイプだった。毎夜30分だけNHKのニュースを見て、あとは火曜日の朝にモルカーを見ただけだった。
 ネットは、当初モバイルルーターをレンタルしようかと考えたが、せっかくの機会なのでネットを控えようと思ってやめた。iPadも持っていったが一度も使わなかった。それでもスマホTwitterはてなブックマークはそこそこ見ていたので、ルーターを持っていたらもっと自堕落な暮らしになっていた。


 机と椅子の並んだ共用スペースが病棟の各階にあった。入院患者がリフレッシュや脳トレのために過ごしたり、面会者が家族の手術が終わるのを待っていたりした。
 日中は割とこのスペースで過ごしていた。売店で飲み物を買って、本を読んだり2~3時間過ごしていると、普段カフェやファミレスで時間を過ごしている感じに近いなと思った。もともとそうやって数時間を過ごすのに慣れていると、入院生活や空港の搭乗前などであまり苦じゃなく時間を潰せるかもしれない。




 手術も「最良」と「最悪」の幅の中では、「最良ではないが、割と良い」結果で嬉しかったし、手術後の苦痛や不自由は多少あっても、入院生活自体はそこそこ快適に過ごせてよかった。
 宮崎学佐藤優の本で、「他にすることがない状態が長期間発生するので読書や思索に集中できる」状況としては入院・収監・船旅が該当するようだと思っていた。(宮崎学は「なのでヤクザは刑務所に行って帰ってくると妙に思索的になっていたりする」みたいなことを書いていた。)それも身体が本当に辛ければ、何かを考えたり集中することも全くできなくなるから症状にもよりけりだけど、今回は全体としては良かった。