やしお

ふつうの会社員の日記です。

仕事を拾わないで。あたしを見て。

 製造業で検査のお仕事をしていて、外注先に出張で検査しにいくことがある。同じチームの後輩が、外注先Aと外注先Bの製品を担当していて、Aには1か月のうち3週間、Bには1週間くらい出張検査に行かないと間に合わない、もう1か月ずっと行くことになる、みたいなことを言うので、そんなのひどいと思って、じゃあBの分は僕が担当するねっていって引き取った。


 そして僕は外注先Bの出張検査を廃止した。よく見たら、製品自体の性格、外注先が実施する検査、外注先の管理体制をおさえれば、出張検査でなくても必要な品質は確保できるということがわかった。外注先と上司と社内ルールに根回しして出張検査をやめた。外注先も遠いしね。


 ところがどういうわけか、後輩は外注先Aに1か月以上ほぼ行きっぱなしになっているという。
 つじつまがあわないじゃないですか。僕が引き取った1週間分はどこへ消えたのよ?


 その外注先Aには、後輩だけじゃなく、他に2人のおじさん検査員が出張検査に行っている。そのおじさんたちの作業分が後輩に降りかかってきて、結果的に僕が抜いた1週間分が埋められている格好になっている。
 じゃあその2人のおじさんはサボっているのかというとそんなことはなくて、また別の外注先CだのDだのEだのに出張検査に行っている。


 こういうことなの。いつだってこういうことなのよ。そうやって仕事がかぎりなく増殖していく。
 その後輩はまじめだし頑張っている。それで、「念のためこれもやった方がいいね」とか「念のためあれやっといて」とかいう仕事を取り込んでしまう。せっかく「念のため」の部分を誰かがはぎ取って捨てても、別の「念のため」で埋めてしまう。そしてその「念のため」の仕事はほとんど、金をかせぐという組織の目的には寄与しない。
 「まじめだし頑張っている人」のところへ「念のため」の仕事が吸い込まれていく。どれだけかわりに捨ててあげても、また別の「念のため」を拾ってきちゃうんだったら、捨ててる意味がないじゃない!


 うちらの仕事は「汗をかくこと」じゃなくて「知恵を出すこと」だ。「手を動かすこと」じゃなくて「頭を動かすこと」なのだ。そうでないと説明つかないお給料をもらっている。そうして、いちばん手間・暇・金のかからない方法を探して、システムを変えていく。もともと営利目的の会社には「(永続的に)金を稼ぐ」以外の目的なんてない。「品質を確保する」といった目的だって、「永続的に金を稼ぐ」という大目的から展開されているに過ぎない。(ちなみに「世の中をこうしたい」という種類の目的は「法人」というもう一つ上のレイヤーに属する。)
 「作業を頑張る」じゃない、「頑張らずに済ませるために頑張る」。これは全員がそう思っていないと、誰かが捨てた仕事を吸い込んでしまうから成り立たない。


 でもねえ。これを伝えるのが難しいんだよ。だって頑張ってるんだよ。その後輩は。
 伝えようとすると「君の頑張りは意味ないよ」って言ってることになってしまう。他の人より頑張ってる、なのに「はー、だめだね」とか言われるなんて、耐えられないに決まってる。(殺すぞ)って思うに決まってるもん。そのあと何言ったってもう聞いてくれない。
 よく「意識改革」と言うけれど、それは変えようとしてる本人が言うならいいけど、他人が言ったってだめだよ。「人の価値観や思考を他人は直接操作できない」という制約、ゲームのルールがある。
 もう個別のケースの中で、具体的に「こういう考え方もあるよ」とか「僕はこういう風にやるね」とか見せていって、どうしてそうするのが有利かの理由も具体的に伝えて、(あ、そっちの方がいいな)と自然に本人が思えるようにしていく、それを積み重ねてくしかないかもしれないと思ってる。急がば回れみたいな。しょうがないね。