やしお

ふつうの会社員の日記です。

御厨貴『宮沢喜一と竹下登』

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二人とも異常者で最高。東京育ちでエリートの宮澤と、地方の青年団出身の竹下、と言えば普通だけど、宮澤は20代で官僚として吉田茂に同行してサンフランシスコ講和会議に参加してて、知能の高さだけで自動的に首相に至ったみたいなスーパーエリートで、竹下は他人の情動を徹底的に把握して役職も手柄も人に譲って野党議員の再就職の世話までして、議員のランキングまで独自に作って計算して首相になった権力追求者で、二人とも度を超えてる。退任後も竹下は手際よく裏で政権を奪い返したり、宮澤は大蔵大臣に返り咲いたりらしさを発揮して楽しい。


 やっぱり竹下の方が面白くて、システムの特性を徹底的に把握してプレーし尽くす、というようなことをやっていて、まずそこまで分析すること事態が難しい上、たとえ分析できてもそこまで実践するというのは常軌を逸している。それは人間としての特性上そこまでコントロールできないだろう(怠惰だったり、自尊心があったりするから)と思うんだけど、それをやっているから異常者に見えるという。徹底的に周りの人間の情動を掴み続けて、そうした人間の情動もシステムの特性、ゲームのルールとして組み込んでいる。DAIGOのおじいちゃん、くらいの認識しかなかったんだけど、おそろしい。
 一方で、宮澤はそうした泥臭い操作をまるでしていないのに、最終的には首相にまでなってるんだから、それはそれで度を越えてるという感じ。


 宮澤と竹下それぞれに関するメモ。

宮澤喜一

  • 幼少期から東京育ち、名門校に進み続ける。
  • 学生時代から満州アメリカに行っている。
  • 漢語の本も読めるし英語もできる、能や謡の素養もある。
  • 池田勇人(父親の後輩だった)に誘われて大蔵省に入る。
  • 戦時中:戦地への赴任経験なし
  • 戦後:秘書官として吉田茂首相に同行して池田勇人とも一緒にGHQとの折衝を進めた→20代の時点で国家の中枢で働いている。
  • 鳩山・岸内閣とは距離をおいていた(池田も大臣は勤めていたが)。
  • 権力闘争を勝ち抜いて首相になったというより、圧倒的に頭が良かったので自動的に首相になったという感じ。
  • 他人を見下している。
  • 小渕内閣で閣僚(財務大臣)として起用される。首相経験者がその後閣僚になったのは宮澤が初。

竹下登

  • 一年生議員のときは佐藤の書生みたいな生活だった。
  • 野党議員の再就職さえ世話をしていた。
  • 花形ポストは全部人に譲っていた。運営委員長も1度きりしか経験していないまま首相になった。それは国会議員になる前、青年団時代も県会議員時代もそうで、人に譲り続けながら、最後に自分がステップアップしようというタイミングで恩を売ってきた相手に気持ちよく支援してもらって上に上がっていく。
  • 政務次官時代の立ち居振舞いがチェックされて、ここでこの先の出世コースが決まるという認識。
  • 大臣ポストの「損失補填」という認識を持っていて、大臣になっても解散や総辞職で短期で終わってしまった人には、後で別のタイミングで大臣ポストを用意して勤めてもらう、トータルの大臣年数を確保する、という考え方を持っていたし実際にそうしていた。
  • もともと田中派にいたけど、田中派から自分の派閥に引き入れて経世会として独立して田中角栄を裏切る形になった。その後小沢が裏切って経世会を分裂させたけど、それは自分もやったことだししょうがないと思っている。
  • 裏切っても許している。そういう人を躾けたり、信賞必罰はしない。そのままずるずる人間関係を続けながら、最後にはいつの間にか勝っている。
  • 社会党委員長の村山富市と親しかった→小沢に裏切られて細川連立内閣が立って、自民党が政権奪還(自社さ連立)するときに、村山を首班にするためにこの人間関係を使う、野党にもパイプを作っているのが役に立っているし、組織の役に立つことで組織(自民党)内での権力を確保する。
  • 独自のポイント算出法で議員のランク表を作って、自分が上から何番目、下から何番目か正確に位置を常につかんでいた。経歴、勤務態度、病気の有無等々でランクをつけていた。さらに総理になれるかどうかは、ポイントの上昇が右肩上がりでないとダメで、途中に踊り場がある(経歴の空白期間がある)と絶対になれないことまで発見して、ポイント上昇のグラフまで作っていた。
  • 国会日程の巻物とかを作って持っていた。
  • 決断は自分の中ですぐに下している。ただそれを表に出さない。大勢が決まったところでようやく言う。
  • 国政については、無限遠の理想へ進む道だから現実との調和点を見いだす営み、という認識がある。
  • 自身が総理総裁を退いた後、宇野内閣、海部内閣、宮澤内閣と続いているがその間総裁選出も政権もコントロールして、小沢の裏切りで下野した後も手をまわして村山内閣を作って与党を奪還しているし、そのあとの橋本内閣、小渕内閣は二人とも自分の派閥から首相を出しているわけで、ずっと力を持ち続けている。