そう、人は失くして初めてその大切さに気づく。愚かで哀れな生き物なのだ。
XPからVista、そして7へとその住処を変えたマインスイーパが自らの装いを変えた時、我々は無垢だった彼女がもうそこにはいないと知って胸を痛める。艶やかに着飾って成長した彼女を見て褒めそやす者たちの無知に向かって、何もわかっていない、お前たちは彼女を何も知らないと呪詛を唱え続けたところでむなしい。
我々はひたすら愚かなのだ。かつての彼女の素朴さが放つ真の軽やかさとの交歓を、失って初めてかけがえのないものだったと知ったのだ。
しかしもう遅い。彼女はガールからレディへと生まれ変わった。しかもそれはVista、すでに7年も前に。ただXPのサポートが切れるまで、消費税が上がるまで、愚鈍な我々は彼女の夢の残像と戯れていたに過ぎない。
あか抜けない田舎の少女だった君は、
本当にきれいになったと思う。
野暮ったかった君が今では品のある配色を知った。
そして変わってはじめて気づく。かつての君と本気で戯れていたとき我々は、もはや数字の形体ではなく色で地雷の位置を見通していたのだということを。輪郭にアンチエイリアスがかかり、原色から中間色になってコントラストが低下した今、私には君がよく見えない。
しかしそれは、我々がもっと君をよく見る努力をすべきなのだろう。
そして君はとてもやさしくなった。
君は初手が必ず空白マスになるよう気遣ってくれるようになった。
かつての君は、何の手がかりもない数字マスを初手から容赦なく突きつけ続ける野蛮さがあった。
空白マスにたどり着く前にプレーヤーに地雷を踏ませて殺害する野蛮な君。そうして我々を手酷く試しておいて、この顔である。
だから我々は何度だってやり直した。何度君に殺されようと気にもかけずにゲームを繰り返す。そして君の方も、その顔を押せば即座にリスタートさせてくれたものだ。
ところが成長した君は、我々が地雷を踏むたびにダイアログを表示する。
「負けました」、「あなたの負けです。次回はがんばってください。」
どこか他人行儀な、そんな台詞を吐くようになった。確かに大人の世界にはそうした無益な冗長性が必要なのだ。「いつもお世話になっております。」、「Best regards,」……
もう少女ではいられない、立派なレディになり、
この顔ひとつで我々の気持ちに寄り添って、テンポのいいリスタートを許してくれた君はもういない。ダイアログを消すという大人の手間を君は我々に要求する。
プレイの勢いあまってダイアログの「他のゲームをオンラインで取得」のリンクをクリック、ブラウザが轟音と共に立ち上がり激しい苛立ちを我々に感じさせる、それもレディの優雅な冗談だというのか。
かつての君は我々を評価するのにハイスコアという指標だけをぶっきらぼうに示していた。しかし親切になった君は、ハイスコアのみならず勝率や連勝/連敗記録も示すようになった。意外に思う。我々に運試しをさせる君が、勝率などで評価するのは筋違いではないかと。
たとえば、
このような地雷位置の確定不能なパターンを君は平気な顔をして我々につきつける。運試しで成否を決定させる君の都合を、勝率などの我々の指標に還元するのはあまりに不当な仕打ちではないかと憤慨する。
しかし不当なのはむしろ我々の怒りの方ではないか。確定不能なパターンにおいてはどちらのマスを開けても地雷を出さないような知性を、彼女は身に付けたのではないか。運命に身をゆだねあえなく地雷の餌食にさせられてきたかつての我々の痛みはもう、ここにはないのではないか。そうでなければ勝率や連勝記録を導入する正当性に欠ける。
全ての地雷の位置を揺るぎなく決定し、我々がそれを見いだせるかどうかなどまるで無頓着だった、あのわがままな姫はもういない。我々を必ずや幸運な未来に導くよう世界を変えてしまう超越的な女王が目の前にいる。世界の再計算は、我々が知覚するいとまも与えずに行われる。まったく慈悲深い知性。
そんな知的な女王などどこにもいない。そうした再計算などされていない。マインスイーパは我々をより愚弄するだけだ。
視認性の低いデザイン、初手空白マス、素早いリスタートを阻むダイアログ、勝率等の表示の矛盾……
彼女は、野蛮なアクションゲームから知的なパズルゲームへと姿を変えたかったのだ。そしてどちらにもなりきれず宙吊りにされた痛々しい姿をさらしている。もういたずらっぽい笑みを浮かべて、あのサングラスをかけてはくれない。
マインスイーパ、君は美しくなった。そしてもうあの魂を交わすほどの戯れに、応じてはくれまい。
かつての君と私の魂の交歓の足跡を、ここにむなしく残しておこう。
ところがどっこい、XPからwinmine.exeをコピーすると7の64bit版でもふつうに動いてわーい!
また電話中にカチカチできる〜
と思ったけどライセンス的にはアウトなのかな。ゾンビにするのはかわいそうだからもう成仏させてあげよう。ありがとうね。さようなら。なむ〜。