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「ナポレオンの甥」でしかない男が、大統領になって第2帝政を確立し肯定ナポレオン3世になる経緯を描いた本。モチーフ自体はマルクス『ブリュメール18日』と同じでも、ナポレオン3世の義弟ド・モルニーに着目する点が新鮮。ド・モルニーが内務大臣として公布した文書と、オペレッタ作者として書いた歌劇の2つのテクストを具体的に見ながら、その共通した構造を見出していくのはめちゃくちゃ面白かった。蓮實重彦の作品はあまりに鮮やかすぎて、読むとその事象がもう「そう」としか見えなくなってしまう恐ろしさがある。
「署名者に権威があるから、ドキュメントが権威を帯びる」のではなく、「ドキュメントが存在する事実が署名者を権威付ける」という倒錯が指摘されていて、それはたぶん日常的によく起こっているけれど、なかなか見えない事象なんだろうなと思った。
- 作者:重彦, 蓮實
- 発売日: 2018/12/11
- メディア: 文庫