やしお

ふつうの会社員の日記です。

書いた本が読まれて嬉しいということ

 20年ほどネットで小説をほそぼそ書いていたらKADOKAWAから短編集を出してもらった。その経緯は以前↓に書いた。
小説の商業出版にいたる顛末:八潮久道『生命活動として極めて正常』 - やしお
八潮久道『生命活動として極めて正常』


 出版から1ヶ月ほど経って、実際に他人に読んでもらえているのを見ると、不思議な感じがする。驚き、喜び、非現実感がないまぜになって変な感じする。色々と感想等を書いていただいたのを、(宣伝も兼ねつつ)自分用にもまとめておきたい。


レビュー・感想

 直近で目撃した順

小説家 円城塔氏:週刊文春6月13日号(6月6日発売)

「激推しぽよ」本を読まない人も、息をするように本を読む人も楽しめる“とてもマレな本”の内容は… | 文春オンライン
 内容そのものには一切触れないまま、作品の可能性を広げるようなレビューになっていた。びっくりして急いで買って読んだら、胸が熱くなった。「激推しぽよ」とまで言ってもらえて本当に驚いた。
 円城塔氏は発売から2週間ほどの時点で「良かった」とツイートされていた。出版社からの献本はされていないと聞いていて、一体どういうアンテナ感度。



小説家 柞刈湯葉氏:カドブン(6月7日公開)

  https://kadobun.jp/reviews/review/entry-95780.html
「闇属性の短編作家」と書かれていて笑ってしまった。二つ名として使っていきたい。
 指摘された作品の特徴はいずれも著者としてかなり納得感が高く、本当に適切に読んでいただけたと感じた。かなりの部分は、コントローラブルにそうしているというより、

  • 根性がない
  • 会社員としての仕事や、ブログの方で自尊心を満たしてしまい創作に割く時間が減っている中で抗っている
  • ネットだと書籍よりフックが強くないと読んでもらえない(と思っていた)

といった理由に起因しているのではないかと考えている(特にネットにアップした既存作)。

書評家 杉江松恋・香月祥宏両氏:YouTube(5月29日投稿)

www.youtube.com
 とても詳細に各短編の、特に変なところ、おかしなところを取り上げて紹介されていた。紹介の仕方が巧みで、お二人共とても楽しそうに語っていただいて、書いたのは自分なのに(面白そう)と思ってしまった。「コミカライズするならジャンプでもサンデーでもなく、チャンピオン」と締め括られていて笑ってしまった。

シロイ氏 (id:white_cake) :はてなブログ(5月22日投稿)

  八潮久道「生命活動として極めて正常」 - wHite_caKe
「老ホの姫」を中心にとても丁寧な評をいただいた。「ユーモアはとても皮肉っぽくて、どこか悲しい」「滑稽な悲しさ」と表現していただいて嬉しかった。
 必死さや真面目さが滑稽でもある、全部上手くはいかないけどトータルでは良かった、恨んでるけど感謝もしてる等々、単純に一面的でもないのが現実だと認識している。「そう書きたい」というより、「書いているとそうであってほしくなってくる」という感じで、ついつい一辺倒ではなくしてしまう癖があるのだろうと改めて思った。
 シロイ氏は、私がはてなダイアリーで創作していた頃から読んでいただいていて、また氏が著書↓を出された際に献本をいただいたこともあって、出版社にお願いして今回の著書を献本させてもらっていたのだった。

 

SF翻訳家 山岸真氏:ツイート(5月10日投稿)


 発売から時間がそれほど経っていない時期に、カクヨムはてなブログ経由ではなく、プロの文筆業の方から褒められたのを見たのは初めてで、ドキドキしたし本当に嬉しかった。
 自分自身ではSFと思って書いてはいなかったものの、出版前に『SFが読みたい!2024年版』(早川書房)のKADOKAWA新刊コーナーで紹介していただいた時に(これはSFだったのか)と思った。SFって懐が深い。

のら猫探偵氏:アマゾンレビュー(4月28日投稿)

  「いかにもありそうで、でも思いもよらない」世界の完成度が高い
 発売から4日後に、とても読みやすい長さで面白かったと書いてもらえて、本当に救われた気持ちになった。書籍のECサイトとしては最大で、こうしたレビューが一つでもあると、どれどれと見に来た人も買ってもらいやすくなるのかなとも思ってとても有難いことだと思った。
「老ホの姫」について、「おかしみとそこはかとない悲しみがあって、すぐに2度読んだほど。」と書いていただいたのも、上記のシロイ氏の感想と同じく、著者として嬉しかった。

小説家 春海水亭氏:ツイート(4月27日投稿)


 春海水亭氏は、同じくカクヨム初で近い時期に書籍化された縁で、一緒にカクヨムのイベントに参加、対談もしていた。(勝手に同期のような親近感を覚えている。)
 発売前後でもツイート等で紹介していただいたり、本当に義理堅い方でありがたい。
 春海氏の著作『致死率十割怪談』は、近所の本屋でもたくさん並んでいてしっかり評価されていて他人ながら嬉しくなる。インパクトの強いフックで絶対に笑ってしまう表現が散りばめられている作品もあれば、しんみりするもの、ホラーの真髄として理解を拒むようなものまで、とてもバラエティ豊かで楽しい短編集。


 この他にもSNS等で感想を書いてもらっている人を見かけて、本当に有難いの気持ち。


ネットと書籍

 ネットで創作をアップするのと比較して、書籍だと改めて以下のような点が違うなと思った。

  • 長いレビューを書いてもらえる。一つの作品ではなく、短編集として複数作品に言及してもらえる。
  • 執筆から感想・レビューをもらうまでのタイムスパンが長い。
  • リリース直後だけでなくじわじわ読んでもらえる。

 


 他者に「面白かった」と言ってもらえるとほっとする。「あ、ちゃんと大丈夫だったんだ」と安心できる。
 書いている最中も、編集者からは「面白い」と言ってもらえて、それでも不安なので妻に見てもらって「面白い」と言ってもらって一旦安心しても、書き終わってから発売されるまでも結構時間があるので、その間も多少不安になり、発売後も(大丈夫だろうか)となる。
 こうした実感も、「本」という形にならなければ知らなかったなと思うと、出版社に声をかけてもらってとても有難いなとつくづく思う。


物理的な書籍

 前回のエントリ(発売1ヶ月強前の告知)以降、着々と物理的な本として出来上がっていくのを見ていたら、「うわっほんとに本になってる」と実感が湧いてドキドキした。


 前後1ヶ月がどんな感じだったのかも記録に残しておこうと思った。著者としての作業はほとんどない。

  • 装丁・装画ができあがる。
  • 色見本が届く。
  • 本(著者献本)が届く。
  • 書店に並んでいるのを見る。


 ブックデザインはbookwall社、カバーイラストはneni氏が担当された。
  bookwall (株式会社ブックウォール) 書籍の装幀、エディトリアルデザインを中心に活動するデザインオフィス
  Home | neni
 カバーイラストは小説を見て書き下ろしていただいたとのことで、内容ともリンクしていて、全体の雰囲気も「色んな要素を好き放題に詰め込んでみました」という作品とも合っていて嬉しい。
 この短編集自体の作り方が、コラージュ作品ともちょっと似てる気もしている。衝突しそうな別の要素を「ここにあったら楽しいかも」と入れ込みながら、違和感と調和を調整してるような作り方をしていて、その点でもカバーイラストと本編のリンクが感じられて嬉しい。


 色見本の著者チェックは任意で、私からの指摘は全くないものの、見てみたかったので送っていただいた。
 帯がまぶしいくらいの黄色で、TOKA FLASH VIVA DX 610という蛍光色のインクだという。生で見るとものすごい黄色。できれば生で見てほしい。


 発売前に著者献本が届いた。完全に本になっている。「本じゃん」と思った。


 発売までは著者としては単に待っているだけなので(早く出ないかなー)と思っていた。
 実際に発売日を迎えて、書店に行ってみたら置いてあって、なんか不思議な感じがした。流通~。


KADOKAWA訪問

 なかなか出版社に行く機会もないし、ひょっとしたら人生でこれ一度きりかもしれないしと、お願いして飯田橋KADOKAWA本社にお邪魔した。
 お茶をいただいた。
 当たり前だけど業務スペースには入れないので、会議室で担当編集者とお話をしたのと、周辺エリアにあるKADOKAWA関係のビル3棟をご案内いただいた。



 カクヨムの垂れ幕が少し色褪せていて、サービスリリースからの歴史を感じる。


売行き

 正確な数字が著者側にあるわけではなくて分からないけれど、現状で「全然売れてない」わけではなく、初速が悪いわけでもないが、重版が見えている状況でもないようだった。
 現実的にはやはり「重版が一度でもかかる」が、次作が出せそうかどうかの一つのラインということで、まだまだというところかもしれない。そうでなくてもせっかく出してもらったのなら、ちゃんと初版分がはけて商売として出版社が損せずに済むならほっとする。


 感想をネットに書いてもらえれば、きっとそれで目に触れて手に取ってもらえる機会が増えるからありがたい。感想が書かれなくても、買ってくれた人には本当に感謝の気持ち大。
 ただそれは商業作家の側面ではそう思うところで、一方で創作者の立ち位置だと、入手経路(新刊書店、新古書店、図書館、サンプル、立ち読み等々)はどうであれ、読んで面白かったならそれだけで満足。今までネットでも知らなかった人にまで届いたら僥倖。



 ↓は投げ銭代わりの設置。お礼しか書いてない。

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