やしお

ふつうの会社員の日記です。

本谷有希子『生きてるだけで、愛。』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/8626785

すんごい面白かった。他人に「わかってもらえない」しんどさは、あの過剰なエキセントリックさでなきゃリアルに描けないはずだという確信。ただ、その「わかってもらえなさ」を自分の特殊性で片付けるのはやや甘い気はする。むしろ原理的にどこまで行ってもわかっちゃもらえない構造があると見るか、そもそも理由は一切問わないかのいずれかで処理してくれればと少しだけ引っ掛かるものの、それを差っ引いてもすごく面白い。周りにとって些細でも自分には重大な事(ウォシュレットが怖い)、その齟齬が決定的に自分を苛む瞬間を定着してみせる腕。

 と、ほめている気持ちは嘘じゃないんですが、実はあんまり刺激的な小説ではありませんでした。というのも同時代的な感覚(?)からすれば、この小説が書かれるという事態は納得がいくからです。むしろ「どうしてこんなものが書き得る/書かれ得るのだろうか」と唖然とさせられるようなものの方が刺激的で、ちょうど最近『深沢七郎コレクション 流』を読んだのですが、その中の「東北の神武たち」はそういう意味で本当に驚異的でした。ここがこうなってこういう効果を上げて、といった分析はもちろんできるんですが、そもそもこれが書かれてしまう事態そのものが全く理解の外にあるからです。
 理解可能なものは、自分にとってそれ以上の何かではあり得ないのです。(もちろん「理解可能」という認識が誤認である可能性はどこまでも付きまといますが。)


生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)