やしお

ふつうの会社員の日記です。

中根千枝『タテ社会の人間関係』

http://bookmeter.com/cmt/53643273

資格:横軸と場:縦軸のどっち重視かで社会の性格が違う、日本は場重視のシステム、って仮定から日本社会の色んな特徴を説明していく。本書は途中式の省略がかなり多くて、その帰結が本当に場重視システムの仮定で導けるのか、あるいは他の仮定も必要なのかとか、そもそも資格/場の二分論自体がどういう必然性を伴ってるのか(どっちかに偏らないとシステムが成立しないのか)とか、検証や整理をかなり自分でやらないとそのままでは使えない。刊行から50年弱で、後期資本主義の浸食を受けて社会が変質してても、まだ概念の提起として古びてない。


 もともと私自身は、日本は受信側負担システムだという仮定で、言語の特徴を含めて社会の特徴を広く説明できるという認識でいる。
  世間力試論 - やしお
↑で「受信側負担システムだ」と仮定するとどういう現象が出てくるかという話を少しだけ書いていた。
 それで、かなり評判のいいこの本を読めばもっと拡張できるかもしれないし、あるいは修正や放棄する必要があるかもしれない、そういうヒントが得られるかもしれないと思って楽しみにして読み始めた。さしあたって一通り読んだ限りでは「日本は受信側負担システムで成立している社会」という認識自体を放棄する必要までは感じられなかった。
 ただ「受信側負担システム」という仮定が、「場重視システムだ」という仮定とどのように関係するのか(同一軸上にあるのか、それとも直交しているのか)といったことをちゃんと確認していかないとダメだと思った。今のところの大雑把な感じだと、受信側負担も、場優先も、循環していてどっちを仮定してもどっちも導ける、というイメージ。ただ、受信側/送信側っていう軸は、「そもそも人は他人とコミュニケートしないと生きていけない」という必然性から出発するという点でわかりやすいし、場重視っていう軸は日本が島国で地理的に直接的な多文化の流入が緩衝されてるって条件から導けそう(と著者が示唆してる)って点で有利かもしれない。


 それで、その作業の前に、本書の内容自体をかなり整理しないとちょっとわからないところがある。あんまり丁寧に説明してくれてなくて、「だから」の間が相当省略されているので、本当にそう言えるのだろうかというのが怪しい。ただその分、結論の部分(現象の紹介)はいっぱい入っているのでありがたい。ひょっとしたら中公新書とかで出してたらもっと(必要以上に?)丁寧に書いてくれたのかもしんない。前書きで「はっきしゆって曲解や誤解に基づく批判が多くて困る」と言ってるけど、この書き方だとちょっとそうなってもしょうがないなって気もする。でもなんてっても50年前の本なんだから、文句なんか言ってる暇あったらそういう作業はこっちでやればいいだけだ。


タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)