やしお

ふつうの会社員の日記です。

隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』

https://bookmeter.com/reviews/86651946

いい意味でタイトル詐欺というか、「日本は文系と理系に分かれている」理由より、そもそも学問の分野って何、どうして分類される必要があるんだ、って話を、大学組織が世界で誕生した地点に遡って考えていく本だった。明確な結論があるというより、時間軸(歴史的な経緯)と空間軸(外国との比較)の両面で情報提供と考えるヒントの提供がメインの本。


 「東大法学部が高級官僚になる」って(旧来の)パターンについては知ってたけど、なんでそうなのかってあまり考えたことなかった。本書で20世紀初頭の日本は近代国家建設が急務で、法律の技術者がとにかく必要だったから、その頃から技術科学系の専門家は官僚組織の中でも下だった、って話がされてて、そういう流れなんだって知られた。
 データで見ても外国に比べて日本は理工系研究者育成偏重の国になっている、それは「植民地化されない国家建設」や「経済成長」の目標があった時代ならともかく、そのままで大丈夫か、という指摘が本書でされているのを見て、ちょっと小松左京の『日本沈没』を思い出していた。日本の国土が地殻変動で海没するというSF小説だけど、その過程で国土海没後の日本人の将来の方針についてのレポートを奈良の僧侶、京都の社会学者、東京の心理学者の3人に作らせる、という場面を何となく思い出していた。理工系の思考様式・概念・知識と人文系のそれらは「どっちか身につけておけばいい」というものでもなくて、どっちもないと物事を正確に捉えたり消化することはできないはずだけど、文系理系って二分して「どっちか」の人材ばかりだと、その辺が分からなくなってしまう。