やしお

ふつうの会社員の日記です。

アンドリュー・クレピネヴィッチ、バリー・ワッツ『帝国の参謀』

https://bookmeter.com/reviews/63801909

国防総省で一部署の長を93歳まで42年間、大統領や国防長官が変わっても勤め続けたアンドリュー・マーシャルにまつわる話だけど、非公開情報が多すぎて具体的な話が少ないのが悲しい。ネットアセスメント室という部署から、アメリカという国の軍事的な位置付けの正確な評価と未来のあり方を冷戦時代から00年代まで発信し続ける。既存の評価法がファクターを捨象し過ぎるせいで現実から乖離してしまうという課題への意識がずっとある。軍事で世界をリードし続けることを真剣に考えた国がアメリカだったから、こういう人が出てくる素地があった。


 結局、「課題をどう解決するか」よりも「何が(優先的な)課題なのか」を特定する方がずっと難しいし、課題の特定のためには「どれだけ現実を正確に把握できるか」が問題なんだ。これがこと国防の話になると、ファクターが膨大になって条件設定がものすごく難しくなる。どこを重視するのかというのが個人のセンスによるところが大きくて(そのセンスというのは膨大なインプットの積み重ねとその組み合わせ爆発による)、それで「余人をもって替えがたし」ということで40年以上も同じ人が降格も昇格もせずに同じポジションに就き続けることになる。
 それに加えて本人の性格的に表に出ることもでしゃばることも嫌いで、あくまで判断して実行するのは政治家や軍人で、自分は評価結果を伝えるだけ、という立ち位置に徹していたことも、政治信条が違う人たちが上司になってもずっと同じポジションに居続けた要因になってる。


 部下の使い方も独特で、ほとんど具体的な方法を指示せずに漠然と指示するだけで、部下が困惑しながら成果物を提出すると、OKなら受け取ってくれるしダメなら突き返されるっていう、自分の上司だったらしんどいなと思うけど、でも「自分で考える」を強制するから教育になって、結果的に部下がもとの所属先(軍)や転職先(研究機関や民間企業)に行っても幹部になっていくという。(でももともと力のない人だと潰されるか去るしかない教育法という気もする。)
 もともと他人に「ああしろこうしろ」と細かく指示を出すのが性格的に好きじゃないからこうなってるだけなのかもしれないし、扱っているのが「既存の方法論で簡単に答えが出る話じゃない」「自分自身も答えも方法論も知らないことを部下に指示してる」というものだから、こういう指示の仕方にならざるを得ないのかもしれない。


 あと訳者あとがきで「この本やマーシャルの仕事を真剣に読んだのは中国だった」という話が紹介されてて、確かにソ連がいなくなって、「アメリカと軍事的な正面衝突を回避しながら東アジアで派遣国家になること」を一番真剣に考えて準備してきた国が中国だったんだから、相手が自分達のことをどう考えてるんだろう、将来の見通しはどんなだろうというのは知りたいのは当然なんだ。


 しかしいくらなんでも本が冗長すぎる。せめて半分に圧縮してほしい。


帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦 略

帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦 略