やしお

ふつうの会社員の日記です。

柴崎友香『寝ても覚めても』

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ひたすら受動的な人物が、同時に徹底的に能動的な人物だったという、言動は世界や他者に対して受け身でありながら、視点は世界や他者の姿を自分の手で歪曲していく。わたしの手が水に濡れると待ち人来たるという小説で、空調の口の水滴が、噴水の滴が、ベランダで雨粒が手に落ちて気付くと麦が出現するという手続きを律儀に踏んでいく。その最後の最後で亮平が現れた「後に」「大雨が」降るもののそれを回避して「濡れない」という完全な対象性を示すという、人物の行動が転換するとき水との関係も転換するという形式的に律儀な小説になっている。