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御巣鷹山の日航機墜落事故をモチーフにした小説という漠然とした理解で読み始めたら、いきなり主人公がアフリカのサバンナでゾウを狙撃していたので驚いた。現在の感覚では、企業による懲罰人事(内部告発やリストラへの抵抗などに対する)は、狭い部屋へ閉じ込めPCも与えず空虚な作業に従事させるといったイメージだが、1960年代末の大手航空会社の懲罰人事は中東やアフリカの僻地に飛ばしてとりあえず疫病に感染させるスタイルで、ダイナミックだった。
60年代後半の労組・労使交渉・労働争議の様子が描かれていて面白い。50年代末に三池闘争が既にあり、60年代には労使協調型へ基本的に移っていたが、高度経済成長期に入ったことで経済成長に対して労働者の賃金の伸びが遅れたことから労働争議が再び起こるようになった、という文脈のことのようだ。
主人公である恩地元は一種の義侠心と論理構築力を持ち合わせた人物で「長いものに巻かれる」ことを自分自身に許せないために、不遇を強いられることになるが、大西巨人の『神聖喜劇』の主人公・東堂太郎のキャラとちょっと似てるなと思った。
- 作者:豊子, 山崎
- 発売日: 2001/11/28
- メディア: 文庫