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基本的なロシアの感覚として、国境の外側に自国軍を展開できるバッファがないと不安、というものがあって、その観点でバルト三国やフィンランド、ウクライナや中央アジア、あるいは極東での意思決定のロジックが理解しやすくなるという指摘があってなるほどと思った。これはかつてロシアが250年間モンゴル帝国の支配下に置かれたことのトラウマで、単に線としての国境があっても侵攻されるという国境を信頼しない感覚から来ているという。
その他気になったことのメモ。
【北方領土交渉】
- 北方四島に関するプーチン大統領は一貫して「国後・択捉島を対象に含めるなら交渉に応じない」というスタンスを取っている。
- 2001年森内閣時代は日本はロシアに対して経済力があったため二島先行返還(歯舞群島・色丹島返還後に中間条約を締結・残り2島を継続協議)の道があったが、現在はない。
- ロシア内部でも領土交渉の熱意に差がある。プーチン大統領は2島返還で国境線確定・平和条約締結に意欲を持っている。ロシア外務省・大統領府は現状維持でデメリットがないため積極的に推進するつもりがない。軍は総力を挙げて反対。サハリン州や漁業ロビーも利権を失うため反対。経済官庁・国営企業は2島の日本引き渡しで経済利益があるため賛成。SVR(対外諜報丁)はプーチンの出身組織で、プーチンが怯むと権力基盤が弱いというメッセージになるため外務省より意欲的。
- 98年4月の橋本首相による「川奈提案」(北方四島の北側で国境画定と引き換えに当面のロシア統治容認)はエリツィン大統領も乗り気で、5月のサミットで決着させる方向で動いて実現可能性もあった。だが首相秘書官に「7月の参院選後の基盤強化にしたい」と止められ、参院選で自民が大敗、橋本退陣・小渕就任、エリツィン健康問題もあり交渉は後退した。ロシア側は「日本の内政で交渉が頓挫した」という記憶になっている。
【民主化・政治基盤】
- ロシアの検閲はテレビは厳しく、新聞はかなり自由。雑誌はほぼ検閲がなく書籍はさらに自由で、ネットは手付かず。この辺は中国と違う。
- プーチン政権はロシア社会に大衆とエリートの間の中間層を厚くしようとした。市民社会を作って公共心を強化しようとしており、一定の成果があるが、同時にその市民層は反プーチンになる。そこが分かっているから、反プーチンにはそこそこの弾圧しか加えない。
- ロシアは基本的に多数決を認めず、全員一致を目指す不文律がある。強い権力を確立するには完全なコンセンサスが必要で、プーチンは独裁者的に見えたとしても、プーチンの周囲の複数のグループが「プーチンを独裁者に見せる」ことに利益を見出して合意することで成立している。
- 基本的にプーチンは政治家的というより官僚的で、行政権の優位を重視している。プーチンは帝政ロシア時代を取り戻そうとしている、といった見方は的外れで、側近集団のバランスを取りながら大統領のポジションの維持を考えている。
【日本の共産主義】
- 戦前の日本のマルクス主義者は労農派(社会主義革命を主張)と講座派(国体変更・天皇制解体・民主革命を主張)に分かれる。
- 32年テーゼ(日本共産党の方針書で1932年にコミンテルンが採択)の中で、日本の支配構造として「絶対主義的天皇制」が挙げられている。講座派は32年テーゼを擁護。特高が共産党員を弾圧する際に、32年テーゼをベースに取調べをするうち、逆に「天皇制」という認識が浸透していく。
- 労農派は日本共産党・コミンテルンの現状認識を批判し続けた。
- 戦後のアメリカによる日本統治も、32年テーゼや講座派の理論を研究した上でなされているために、かえって32年テーゼの日本社会の認識が強化された面がある。
- 戦後の「日本型経営」、バブル期の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」、あるいは現在に続く日本特殊論は講座派の枠組み。文明開化や大正デモクラシーも世界的に見れば特殊な現象ではないはずが、講座派的な日本特殊論の視点で見てしまう。
【東欧・北欧】
- バルト三国でのロシア系住民は、エストニアは3割強、ラトビアは約半数、リトアニアは10%以下。エストニア・リトアニアでは権利が保全されているが、ラトビアはロシア系住民を無国籍者とし、厳しい語学試験と政治への忠誠度を条件にラトビア国籍を付与している。ラトビアのロシア系住民は試験を受ける気もないが、一方で何世代もラトビアで暮らしているためロシア国籍も取得する気はないため、無国籍状態に置かれている。人権上問題があり、ロシアが(軍事介入はしないとしても)ロシア人保護を名目に干渉したとしても批判するのは難しい。
- フィンランドもロシアとの間で領土問題を抱えている。カレリア地方はフィンランドの一部だったが大部分をロシアに取られた。カレリア共和国としてロシア連邦を構成している。フィンランドにいた共産主義者が弾圧を逃れてソ連のカレリアに入ったという住民が3割を構成しているため、フィンランドに戻ることへの反対も強い。