やしお

ふつうの会社員の日記です。

正垣泰彦『サイゼリヤ』

https://bookmeter.com/reviews/96952471
サイゼリヤが大好き」という私の気持ちは、美味しい・安い・居心地がいいといった理由だけでなく、「この会社の合理的な姿勢が好き」がものすごく大きくて、読むとまさにその気持ちをより強くしてくれる本だった。創業社長が思考やノウハウを公開しても平気なのは、「真剣に考えて、それを実行する」を愚直に・徹底してやり抜くことがものすごく難しく、実践できる会社組織がほとんどない、という事実の裏返しなのだろう。元トヨタ副社長の大野耐一トヨタ生産方式』に似た読後感を覚えた。この姿勢そのものは製造業でも外食産業でも変わらない。


 店長に店の売上の数値目標を課すことはしないし、無意味。店の売上はメニュー・立地・面積などで決まり、それは店長が左右できる問題ではない。だから店の売上目標は商品開発部門が設定し、店長は週単位の人員配置=人件費の管理が仕事になる。自分の責任でどうしようもない目標を設定すると、責任の所在が曖昧になるし、意欲もなくなるので害悪。
 みたいな話も書いてあって、素直に考えれば全くその通りだけど、この「自分でどうしようもない数値目標を設定する」というのは実にありふれた話で、ちゃんと避けるには上から下まで「合理的であること」「目的と手段を取り違えないこと」が徹底していないと難しい。店長の人件費管理については、具体的な方法もその後書かれていて、そこもすごく面白い。
 真剣に考えると、常識や通念からズレた結論が出てきてとても楽しい。


 正垣泰彦の次の社長の堀埜一成が、前日の西村経済再生担当大臣の「ランチもリスクが低くない」発言を受けて、決算発表の席上で「昨日またランチがどうのこうのと言われましてね。ふざけんなよと」と発言したことも1月に少し話題になった。本書では、事故や災害、不況といった逆境に遭っても、それを所与の条件としてどう乗り切っていくか、が繰り返し説かれている。総体として世界は豊かになっていくし、そのために貢献しないといけない、という理念が語られている。そうした方向で力を尽くす中で、合理性もなく手も尽くさず、責任も取らず負荷を丸投げするような態度を見てしまうと「ふざけんな」という気持ちになるのもよく分かる。