やしお

ふつうの会社員の日記です。

ロラン・バルト『表徴の帝国』

https://bookmeter.com/reviews/104157306
俳句のことを「時間のなかに刻まれた軽い傷跡の一種」と言われると、あんまりにもぴったりした言い方に思えてくる。日本語、書、パチンコ、地図、文楽、顔、等々、確かに日本の様々な事象を題材に色々論じられているが、別に日本のことが描かれているわけでは全く無い。訳注・解説で宗左近がバルトの思想の背景、本書のベースについて丁寧に説明を加えていて、それも踏まえて読むと「日本を描いているが日本を描いていない」この本、一回きりのライブみたいな考えの動きの跡を少しでも捉える手助けをしてくれる。


 ある国の人々の顔を画一的に論じる、というのは、肯定的にせよ否定的にせよ、ほとんど人種差別と結びついて不可能と思われるが、本書の「瞼」で日本人の顔(というか眼)について論じられているものを現在の視点で読んでも、まるで人種差別とはほど遠いと感じるのは、そこで語られているものが(対比として持ち出される西洋人の顔も含めて)もはや人の顔そのものではないとしか思えない、そういうテキストになっているからだった。