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「商品は良いが会社はevil」という印象通りの報告。国際NGOから東南アジアの下請け工場の労働環境の悪さを指摘されて、全く同じ工場なのにH&Mが「指摘の問題が確認されたから改善する」と回答してユニクロが「ご指摘の問題はありませんでした」と回答するのもすごい。昨年のセルフレジの特許潰し訴訟も最悪だった。柳井家で4割超の株式を保有し、社内取締役4名中3名が柳井社長と息子2人、経営と資本の分離はなく、社長の価値観が「批判は攻撃と受け取る」「利益に繋がらない改善は不要」だからどうしようもない。
最近のウクライナ侵攻で、ロシアが権威主義的・独裁的な体制なのも非常にリスキーなんだ、民主主義体制はミクロ的に見ると損しているようでも、マクロ的にはやっぱり得というか安全なんだ、という気持ちになって、本書でファストリ/ユニクロ内部で柳井社長が絶対的な権威としてその立場を保持している結果、グローバル企業の姿勢としては極めてリスキーな状態にあって、さらに解説で蒲田慧が「経営者が社内民主主義を自己点検する志向が弱まっている」と指摘しているのを見ると、国に限らず会社でも一定程度の民主制が定着していないと(たとえ創業経営者でも経営から排除できるようになっていないと)危険なんだなと改めて思った。
「潜入取材」という手法も面白いしすごいけれど、最も下層のアルバイトとしての潜入なので、本社内部の内在的なロジックや状況は、周辺的な取材や類推に留まっている。その辺をもっと見てみたいとか、あるいは渥美俊一のチェーンストア組織理論と照合した時に、ユニクロはその規模に対してどの程度組織システムが成熟しているのかといった観点で見てみたいとか、色々思ったりはするけれど、それはもう第三者委員会報告書のようなもので、著者に言う筋合いじゃない、ないものねだりだなという気もした。