やしお

ふつうの会社員の日記です。

『映画長話』刊行記念トークショー

 節電の名残で今日は出勤日でしたが、有給休暇を取得してオーディトリウム渋谷へ行ってきました。


 批評家の蓮實重彦、映画監督の黒沢清青山真治によるトークショーの後、青山真治監督作品『赤ずきん』、万田邦敏監督作品『面影』の短編2本の上映があり、それから万田邦敏を加えたトークショーという構成。
 14:00開始17:40終了の豪華な時間でした。やっぱり会社を休んでよかったです。


 後半の4人のトークショーの中で距離感のことが話題に上がって、蓮實重彦が、ここにいる3人の監督はロケをするにしても距離感覚が優れているのに、最近の映画で距離感がまるでおかしい、何も考えていないとしか思えない映画が多いと、例えば『インセプション』や『ツリー・オブ・ライフ』を挙げて、あの無残さは見るに耐えない、というような話をされました。(実際には、『面影』での位置関係や、監督たちが距離感を意識し始めた話、拳銃での距離、刀での距離、キスでの距離等々もっと実証的なお話が続いていました。)
 その後、映画を撮りたいと思う人が増える一方で観たいと思う人が減るアンバランスさの中にあって、教育機関ではやたら若い人たちを撮れ撮れと唆しているけれどいいのか、という話を蓮實重彦が持ち出し(ちなみにこれは『映画長話』でも話されていた)、黒沢清万田邦敏の学校で教えてもいる両監督が、それでも優れた奴らが出てきてしまうので撮るなとは言えない(加えて黒沢清は「私は蓮實先生に撮るなとは言われませんでした」)と答えて最終的に、そういう優れた人たちは徹底的にえこひいきすれば良い、という結論(?)に落ち着いてとてもよかったです。
 トークショーの終わり近くで青山真治監督が、蓮實重彦の最後あたりの教え子の一人で自分もえこひいきしていた江良圭監督が『ガクドリ』という映画で監督デビューを今年に果たして、しかもしっかり距離の映画になっている、と紹介されていて距離感のこととえこひいきのことが最後に具体的な名前を伴ってきちんと出てくる、というのはちょっと感動しました。帰って調べてみたらDVDが出ているようなのでぜひ観てみたいです。(と、ここで紹介したことでさらに少しでも広まれば。ここじゃあんまり影響もないですが。)


 それにしても蓮實重彦の話は本当に聞きやすい。「えー」とか「あー」とかをあまり言わないとか、ゆっくり落ち着いて話している、といった話し方の部分だけではなくてどうも、語りの構造自体がすごくクリアーだからなのかもしれません。それこそ位置関係が見やすいというか。自分もああ話せるようになりたいもんだわと思いつつ、明日になったら会社で必死にわちゃわちゃ人に分かりにくく、あれこれ説明してるんだ。