やしお

ふつうの会社員の日記です。

黒野耐『「戦争学」概論』

https://bookmeter.com/reviews/66555920

戦争の思想や戦略の変遷を、ナポレオン戦争イラク戦争の具体例から地理的・技術的条件を交えてロジカルに、かつコンパクトに解説される。優れた解説である一方、戦争をロジカルに整理しようとすると不可避的に、国家間の損得勘定のゲームとして抽象化してしまう。そのことを相対化しない限り、ロジカルであることがあたかも「正しく」見せてしまうために、語る本人でさえその限定的な正しさを全面的な正しさと混同してしまう。現状への提言でこの部分最適の狭さが発現する。それでも特定の軸での見方(戦争のロジック)を教えてくれる有用な本だ。

 地理的な条件と技術的な条件の掛け算で、戦闘が起こる地点や戦略が決まってくる。地理は固定でも技術が変化する。それで「戦略的に重要な地点」や「戦争が起きやすい地点」は昔も今もそれほど変わりがなくても、飛行機が飛べる距離、ミサイルが届く距離といった技術的な変化で、それまで「海からこれだけ奥に位置していれば大丈夫」だった地点が大丈夫じゃなくなったりして、攻防の戦略が変化する。
 戦車が登場すれば塹壕戦はなくなるし(WW1→WW2)、精密誘導爆撃が実現すればいきなり神経系統を破壊するようになって「前線で両軍がぶつかる」という感覚が消滅したりする(イラク戦争)というような技術との関係があれこれ具体的に語られていく。
 もともと軍事にも兵器にもほとんど関心はないけど、でも地理×技術でアクションがある程度決まってきて、そのアクションを具体的にそれぞれの国が実現しようとしたり、あるいは他の要素(世論なり財政なり)の制約で中途半端に断念したりしている、その「経過」をいつでも今見ているのだとすれば、その「今」の文脈を見ようとすれば(どういうつもりである国がそのアクションを取っているのかを理解しようとすれば)どうしてもこうした軸での見方が必要なのかなと思って。

「戦争学」概論 (講談社現代新書)

「戦争学」概論 (講談社現代新書)