やしお

ふつうの会社員の日記です。

丸島儀一『キヤノン特許部隊』

https://bookmeter.com/reviews/71376771

キヤノンの強力な知財戦略が、カメラメーカーだった→フィルムメーカーに「お前らのおかげで儲かっている」と言われる→消耗部品を売る必要を感じる→普通紙複写機に挑戦する→ゼロックスの強固な特許網を破る必要がある→上流から特許担当と設計者が協力する体制が生まれる→逆に相手から破られない特許網を構築する、という経緯だった。「特許で稼ぐ」風潮には明確に否定的で、自社の技術を守ることと他社の技術を使うことで設計の自由度を最大化させるのがあくまで目的で、特許やクロスライセンスはその手段に過ぎないと明言している。

 方針が明確なので交渉もできるんだってことがよくわかる。あくまで「自社の設計を他社よりも優位にする」という目的が第一なので、どの特許は相手に渡さないか、という判断ができるし、相手は自社のどの技術を欲しがっているのかを事前に徹底的に研究するという手段も出てくる。そうして「相手が欲しいもの」「自分が渡したくないもの」をはっきりさせると、「自分にとっては損得と関係ない妥協」の範囲が自ずとはっきりしてくるので交渉が可能になるし、そのためには事前に身内の中で方針や目的を一致させておく必要があるという。交渉の場では瞬発力が必要で、どれだけ即座に具体性を持って反論や説得ができるかが重要で、そのためには具体的な技術を正確に把握する必要があるという。
 クロスライセンスが設計の自由度を高めるというのは、包括的なライセンス契約がないと、特許侵害にあたらないか事前調査が必要になってそれに開発の時間の2割以上を浪費してしまう、でもそれって「開発」という行為の本質なのか、という話もあって、開発を無益な時間から解放するためにも知財部門がしっかり他社とパッケージ契約を結んで「自由に技術を使っていい」環境を作り出す。
 あとアメリカは特許権が強まると独占禁止法を弱めて、独占禁止法が強まると特許権を弱めるという波があって、プロパテントとアンチパテントの政策的な波がある、独占状態が強まって競争が弱まると特許権と強めて競争を促すし、競争過多になると特許権を弱める、という認識も面白かった。

キヤノン特許部隊 (光文社新書)

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