https://bookmeter.com/reviews/71171074
直感的に正しく思われる既存の概念を拡張すると、そこから見る景色はもはや直感的には正しく見えなくなるのは刺激的だ。例えば「要素の個数」を無限集合に拡張すると「濃度」という概念が得られるが、奇数、自然数、有理数の全体という後者ほど直感的には大きそうな集合が実は全て同じ濃度であるという。あるいは性質を考える過程で実は既存の概念の拡張になっているのが面白い。例えば整列集合の「長さ」を考えると実はそれが自然数の拡張にあたる。そして最後に「全ての集合を要素とする集合」を考えると体系が矛盾するという限界にまで到達する。
「直感的に正しそうな既存の概念」、例えば有限集合から出発して、それに付随する考え方を汎用化して拡張していくというアプローチは、古典的な集合論だといい、一方でより厳密には必要最低限の公理を定めた上で種々の定理を導いて「集合論」という体系を築いていくのが公理的な集合論となる。
初学者というか体験や感覚に縛られてそこからの抽象化によって概念を獲得していく人間にとっては、古典的な集合論によって一歩ずつ「直感的に正しく見える」「経験的に正しく思える」という範囲から離れていき、十分にその世界に馴染んで「もはやそうとしか思われない」という次の「正しく見える」にまで進んでようやく、公理的な体系として改めて見直すことが可能になる。最後に付録としてベルナイス=ゲーデルの公理的集合論を紹介する本書のアプローチはその意味で正しく「入門」なのだと思う。
そして集合論を公理系として見た時に、公理の一つである「選択公理」がユークリッド幾何学/非ユークリッド幾何学における平行線公準と同じような位置付けにあって、付け加えても、あるいは否定命題を付け加えても成立するという。
- 作者: 赤攝也
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/03/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る