やしお

ふつうの会社員の日記です。

鈴木伸元『性犯罪者の頭の中』

https://bookmeter.com/reviews/75013718

A受刑者が10年以上に渡る性犯罪の加害者となるプロセスがとても興味深かった。優秀な高校・大学を出た→就職して長時間労働・休日出勤・上司や同僚のプレッシャーで自殺を考えるようになる→闇サイトを見る。人が知らないことを見ている感覚がストレス解消になる→どうせ死ぬならと実際の犯罪(覗き)に手を出す→仕事に慣れて時間に余裕ができる・自殺願望が減る→より巧妙・困難な犯罪(押し入っての強姦)を計画する→スキルアップの感覚に自己実現を見出してやめられなくなる、という。ある種の「中毒」状態に陥って自力で抜けられなくなる。


 A受刑者は知的水準が低いわけでは無く、かなり正確な自己分析もできるし、止めるようなある種の努力までしていても、それでも止めることが難しいという。加害者の中には「やめたい」と願っていても止められずに、捕まって刑務所に入ってようやく安心する、という人も少なくないという。
 再犯防止プログラムの中で「自分は前日に上司や同僚から叱責されてストレスが溜まった状態で満員電車に乗ると痴漢をしてしまう」という自己分析をして、対策として満員電車に乗らないようにしていた人が、たまたま電車事故でいつも乗る電車が満員になってしまって、さらにどうしても遅らせられない仕事の都合があって、満員電車に乗ってしまって再犯をしてしまった、という事例も紹介されていた。
 再犯防止の対策や取り組みについてもいくつか触れられていたけど、自己肯定感や自尊心を満足させる手段を、犯罪行為以外にいかに複数持てるか、というのが主眼のようだった。それでも防ぐのが難しいという。


 被害者側にとっては、「最悪殺されるかもしれない」という可能性の恐怖を突きつけられるわけだし、「自分が暮らしている社会を信用できなくなる」という取り返しのつかないダメージを与えられるという意味で、加害者の行為が正当化される余地はないし、そこは本書でも強調されるところだった。一方で「加害者がおかしい人間だからだ」「悪人だからだ」で終わらせてしまうと一向に対策が取れないから、犯罪に至る内在的なロジックやプロセスを明らかにする作業が必要だし、その理解が一般にある程度広まる必要もあるところに、本書の存在意義がある。

性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)

性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)