やしお

ふつうの会社員の日記です。

ケネス・J・アロー『組織の限界』

https://bookmeter.com/reviews/75013674

訳者が書いている通り、この本はまず、数理経済学として市場の機能を徹底して数学的に形式化させていくという著者アローの仕事が第一にあって、それに対するカウンターとして、市場の機能に包摂されない意味での「組織の機能」について触れておくという位置付けのものなので、組織の形態を分類したり歴史的な発展を明らかにする本じゃない。組織では市場の原理が内部的に一部遮断される一方で、権威の働きによって意思決定がされる、その権威がどういうもので、どうやって成立しているのか、という話がメインだった。


 本文では触れられていないが解説で触れられている「アローの不可能性定理」というものが面白かった。「満場一致性と二項独立性を両立する社会的決定の制度は独裁制のみである」ということを証明したものだという。

  • 満場一致性:全員の考えが一致する時に社会がそれを採用する
  • 二項独立性:選択肢AとBのどちらが社会的に好ましいかを決定する際に、他のCとの関係は一切影響しない
  • 独裁制:一人の考えを社会が採用する

満場一致性と二項独立性が合体すると独裁制になってしまうという。経済学者であり本書の訳者でもある村上泰亮がそれに対して、「二項独立性が成立するのは独裁制と逆独裁制のみである」ことを証明した。(逆独裁制:常にその人の考えの逆を社会は採用する、という架空の制度)
 満場一致性は逆独裁制を除外するための条件なので、独裁制をもたらすのに支配的なのは二項対立性の方だ、という。


 以下はただのメモ


 価格システムでは資源配分・所得分配が機能しないため、それを補うために組織がある。非市場的な方法による資源配分が必要になる。価格システムの働きが内部的に一部遮断されるのが組織(政府や企業や学校やその他もろもろ)。
 組織の機能的な役割は、個人を結合することでより大きな機能を果たすことができる、より大きな生産性を得られるというところにある。組織の特徴として、権威による配分がある。ある個人の決定を、別の個人が実行するということ。雇用契約は権威を受け入れるという契約であって、売買契約が市場的な関係に基づくものだとすると、雇用契約は人格的な関係に基づく。この人格的な関係に基づく権威が弱いタイプの組織というのは専門職の組織になる。権威の変化(権威に制限をかける、弱化させるような変化)に対する抵抗は、権威を行使する側はもちろん被行使者の側にも大きい。権威は意思決定の集権化、情報伝達のコスト低減に役立つ。権威への服従は、刑罰によるものだけではない。全員が権威に従うことがトータルで得になる、権威に従う人々にとって不確実性を減少させるメリットがある。
 法律や行動規則といった非人格的な権威は万能じゃない。情報処理能力が低い、多様性に対応できない。全てを網羅して形式化するには多大なコストがかかって現実的じゃない。その意味で自由裁量型の権威から定式化された権威へと向かうことは必ずしも万能ではない(やる意味はあるけど)。
 権威への制約は、究極的には組織の成員が全員いなくなるかもしれない、というところにある。そこまで極端でなくても、成員の不服従の可能性が、権威への制約として機能していく。

組織の限界 (ちくま学芸文庫)

組織の限界 (ちくま学芸文庫)