やしお

ふつうの会社員の日記です。

柄谷行人『世界史の構造』

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原理から世界史を語り起こすという点で、本書を読むとどうしても、例えば『銃・病原菌・鉄』なんかがあまりに世界の捉え方が貧しくて、耐えられないほど退屈に思えてしまう。本書の後に刊行された『「世界史の構造」を読む』が概要説明に、『哲学の起源』『遊動論』『帝国の構造』が個別テーマへの適用になってて、先にこの4書を読んでいたのでびっくりはしない代わりに割とすんなり読めた。読めたけど理解している(=手ぶらで本書を説明できて、物事をこの理論体系から見る)レベルにはまるで達していないので読み返して整理し直さないとダメだ。


 とにかく適用範囲が広大なので、まずちょっと原理的な部分をもう一度整理しないと。4種の交換様式、その組み合わせ/強弱で、ミクロからマクロまで世界史の構造(国家、民族、経済、あるいは国家誕生以前の世界)を記述できて、しかもあり得べき将来の構造も導くという話。ある時期に生じた思想や哲学がどういう交換様式に根差した構造から規定されているのか、とかいう話も。というか適用範囲がとにかく広い。かなりわくわくする話だ。


 柄谷行人はひょっとすると残りの人生を、この理論体系から様々な現象を記述し直していくという作業に充てていくつもりなのかもしれない。この文庫版の後書きで、『哲学の起源』、『遊動論』、『帝国の構造』を書いたけど、まだまだいっぱい書くことある、と書いていたし。でもそれはたぶん、柄谷行人じゃなくてもできる作業で、『世界史の構造』で理論体系+適用例が整理された形で提示があった段階で、それをそこそこ正確に理解していれば、あとは個別具体的に適用して記述するのは他の人でもできる(誰でも、とまでは言えないにしても)。
 だから、「もうここまでの仕事はやったんだ」、あとは「余生でサービスしといてやるよ」、という感覚だったりするのかな。人がこれをちゃんと理解して応用例を出してくれるにはまだ少し時間がかかるかもしれないので、先にやっといてあげようという感覚かもしれない。ひょっとしたらそんな余裕の表情でやってるんじゃなくて、現時点でかなり資本主義がギリギリに近づいてるから、なるべく早く適用例をいっぱい提示して、なるべく広く浸透させて、構造変化に備えないとヤバい、というアクチュアルで切実な気持ちもあったりするのかもしれない。