https://bookmeter.com/reviews/71545175
東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンで紛争の後処理の現場を管理職・決定権者として担った人の本。国家の安定は、暴力装置が文民の手で独占的に一元管理できている状態が前提で、そこが崩れると紛争状態になる。だから紛争の後処理はまずパワーバランスを崩さないようにアンオフィシャルな暴力装置を解体しつつ、国軍・国家警察に暴力を一元化して再構築する作業が第一に必要となるということがよくわかるし、そこを見ずに学校・医療施設・インフラ整備といった「きれいな」復興支援の話しかしないのは現実的ではないという。
平和維持活動のノウハウは、自国の軍事組織のROE(交戦規定)に集約される、という認識が語られている。どの場合に、どの相手に、どの武器をどの程度使用して良いのか、というルールは国ごとに自国の法律や政治との整合性を持ちつつ決定される必要があるし、そこが漠然としていれば結局、隊員の安全も守れないし、あるいは不適切な行動を誘発する。そしてどれだけROEが具体的に練り上げられているかは実地のノウハウの集積(実例に合わせて修正の積み重ね)になるという。
それから日本が憲法前文で国際社会の平和を求める姿勢、他国のことも傍観しない姿勢を謳っていながら本当に行動でそれを示していないという指摘もあった。実は武力によらずに貢献する道があって、例えば国連軍事監視団への参加がそうだという。大尉以上の軍人のみが参加可能で非武装で中立な立場から、国連平和維持軍も監視対象にしながら交戦事故があれば現場で調査を進めたり仲裁する。その過程で現実のケースへの対応力が積み重ねられる。
「国際貢献だから」「復興支援だけだから」「安全な地域だから」と(実態とは違うことを)言って「本当に憲法と整合性が取れているのか」を曖昧にしたまま既成事実を作るために漠然と派兵するのは間違っているという指摘で、きちんと時間をかけて議論して、軍事監視団への参加等を通して非武装でROEを練った上でやるべきだ、という話だった。
ちょうど最近、自衛隊のイラク派遣の日報が話題になっていたりするけど、その当時も政府の説明は「復興だけ」「安全な地域」と言われていたかと思う。著者は、復興のために軍事組織が出向くことはそもそも矛盾しており許されない、それなら資金的にも安価なNGOがやるのが当然だという真っ当な指摘をしている。
他にも復興や支援の資金を出す時にいかに政治的な条件を付けるか
「内政干渉にあたるから」と手控えると結局、国民の税金が最終的に紛争そのものの資金になりかねない以上、内政干渉だと非難されても「あなた方がこれをしなければこちらは金を出さない」という条件付けをしっかりしないといけないという。
綺麗事を言って現実を曖昧に視界から遠ざけると、最終的には大きなしっぺ返しを食らうという。
外交や政治から現場まで絡み合いながら展開される紛争後の光景や課題をひたすら具体的に見せてくれるのでとても面白かった。
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/12/18
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