やしお

ふつうの会社員の日記です。

反社カルトが国政に食い込む構造

 政治構造への従来の認識と、最近の統一教会関連の報道を合わせると、だいたいこんな感じだろうかと現時点で思うところのメモ。


ゲームのルール

  • 国政は数のゲーム。多数決による。
    • 多数決は「採決の前に議論が尽くされ(修正が施され)、十分な情報が採決者にインプットされていること」が前提・理念で、本来はただの「数のゲーム」ではないが、多数派が理念を無視することで無化される。
    • 無化する理屈として「多数決で選ばれた=全員が賛成」というすり替えが多い(与党だから国民の意思そのもの、というような)
  • 多数決で勝つための数(議員数)を増やせる人物/集団(政治家/派閥)が力を持つ。
  • 議員の数を増やすには、選挙で票を集める必要がある。

 

  • 選挙の票には組織票と浮動票が(仮に分類すると)ある。
  • 世間の感心が低く投票率が低い時、組織票の相対的な割合が高まる。
    • 組織票の「当落の正確なカウントができる」「組織票の倍が彼我の差になる」性質は、政党・派閥・候補者にとって大きな魅力になる。
    • このため組織票は、規模が小さくても政治家にとって重要になる。
    • 特に支持基盤の弱い候補が、あと少しの票の積み増しで勝てる見込みがある時、「小さな組織票」が大きな力を持つ(ように見える)。
  • 投票率が低い時、浮動票は、マスコミを通した政党のアピールの影響力が低くなる。
    • このため候補者は、選挙区で露出を増やす、有権者への接触を増やすことが重要になる。(電話かけ等)
    • それには金やマンパワーが必要となる。

 

中間団体の生存戦略

  • 中間団体:業界団体、職能団体、労働団体、経済団体、政治団体、宗教団体など。
  • 中間団体は、自身の生存基盤・環境を安定させようと働く。
  • 国政への影響力を持ち、自身に不利な法整備等をさせない/有利な法整備等を進めさせることで、生存基盤の安定化を図る。
    • ※生存基盤に限らず、理念の実現のためや、団体幹部の地位保全のためにそうする場合もある。

 

  • 国政に限らず、地方政治への影響力を強め、地方議会での政策実現を積み重ねて国政に反映させる、という戦略も並行して取られる。
    • 神政連などによる元号法制化もこうした戦略が奏効した実例になっている。
    • 統一教会の地方支部トップもテレビのインタビューで「最終的に中央政界への影響を与えようと地方議会への働きかけをしている」旨を割と素直に語っていた。
  • これは右派/左派は関係なく、基本的な常套手段になる。
  • イデオロギー団体に限らず、NPOなども社会福祉政策をまずは自治体でモデルケースとして成功させて中央で導入させる、といった段階を経る。

 

  • 中間団体が国政への影響力を持つには、直接的手段と間接的手段がある。
  • 直接的手段
  • 間接的手段
    • 選挙時:組織票と浮動票それぞれへの働きかけがある。
      • 組織票:団体所属者に選挙で特定候補者へ投票させる。
      • 浮動票:団体所属者を選挙ボランティアなどのマンパワーとして無償で提供する。
    • 平常時
      • 事務所スタッフや秘書を無償で提供する。
      • 政治献金やパーティー券の購入などで経済的に支援する。
  • 直接的手段は外部からも影響関係が比較的分かり易いが、間接的手段は見えにくい。(綿密な調査報道やルポが必要になる)
  • 以下は主に「間接的に影響力を持とうとする中間団体」に関する話。(旧統一教会がそのタイプのため)

 

中間団体の盛衰

  • 既存の中間団体が組織力を低下させて、相対的に国政への影響力を低下させることはよくある。
    • 例:非正規労働者の割合が増したことで、労働組合の組織率が下がり、連合の集票能力が低下する。
    • 例:全国の特定郵便局のネットワークが有力な集票機構として自民党郵政族議員の権力の源泉になっていたが、小泉政権郵政民営化と「抵抗勢力」のレッテル貼りで弱体化された。
    • ※これは単に「小泉純一郎(清和会)による平成研(経世会)潰し」という政治闘争の側面だけではなく、郵貯簡保財政投融資の巨大な資金源となって、再生産に寄与せず回収の見込みもない投資が国家財政を蝕んでいた状況に対して、その蛇口を締める必要があった、という財政改革の側面があった。
  • 既存の中間団体の影響力が低下することで、相対的に別の団体の影響力が増す。

 

自民党(清和会)内の状況

  • 以前の自民党経世会が最大派閥で、竹下以降実権を握っていた(宇野・海部・宮澤は非経世会だが経世会のお膳立てで成立)。
  • 小泉政権下で、小選挙区制の特性が全面的に展開され、派閥の影響力低下・執行部への権力集中・中間団体の影響力低下が進んだ。(上述の郵政選挙等)
    • ベースとして、小泉純一郎首相のポピュリストとしての資質によるところが大きかった。
    • 既存の集票機構に頼らなくとも、自分自身で争点と敵を作り出してストーリーを構築、世論を喚起し、浮動票を取り込む技術・能力に長けていた。
  • 小泉後も、経世会の弱体化により小泉と同じ清和会出身の首相(安倍・福田)が続いた(麻生は宏池会系)
  • ただし支持率を維持できず、ねじれ国会で苦しめられ1年おきに首相が交代し、政権交代で下野した。
  • 既存の中間団体の影響力低下+ポピュリズム的手法での支持率確保が難しい状況だった。
  • 首相・総裁が自身のポジションを獲得して安定的に維持するには、党内で自派閥の規模を維持・拡大する必要がある。
  • 安倍首相・清和会にとって、以下の点で旧統一教会と距離を近付ける要因があった。
    • 祖父・岸信介以来の関係
    • 国家主義的思想・反左派姿勢の親和性
    • 90年代後半以降のマスコミによる統一教会の被害報道減少・世間の感心低下
    • 派閥トップ・党トップ(安倍元首相)の規律のなさ
  • 利害が一致した旧統一教会の影響力が、自民党内、とりわけ清和会内で、自民党下野後の2009年以降に拡大する。
    • これは「旧統一教会自民党を支配している」といった(陰謀論的な)意味ではない。
    • 票の獲得に対して、庇護・目溢し・便宜供与といったギブアンドテイクの関係。
    • ※国家と国民が、(その起源で)服従に対する保護、貢納に対する再分配の交換関係で成り立つのと似ている。

 


 以前にも、第2次以降の安倍政権が安定しているのは何だろうと思って、以下のようにまとめたりしていた。

 それは選挙構造だったり、世間への見せ方だったり、官僚機構の再構築だったり、様々な要素の重なりで発生した現象だったと理解している。
 今回の旧統一教会の話も、(自分には)見えていなかっただけで、その一つだったんだなと思った。受かるか微妙な候補者に、カルトの力で上乗せして勝って、議員の数を積み増して権力基盤の安定化に役立てていた。
 「確かにそれをやれば権力を手に入れられるが、それをやったら恥知らずでは?(全体の不利益では?)」と思える手段を、気にせず積み重ねた結果で継続していたのが安倍政権だったのだろう、と改めて感じた。「歴史に見られている」感覚が希薄な宰相だった。ハックするには図抜けた凡庸さという一種の才能が必要だったのだと考えている。


反社会的団体の規制

  • 統一教会は、市民の財産や人生を不当に窃取・破壊するような活動をする点で、反社会的な団体と言える。
  • 「反社」と言えば、暴力団(ヤクザ)がいるが、かつては政治家などへトラブル解決などで恩を売り、一方で庇護を得るなど、共存共栄の関係にあった点では似ている。
  • 暴対法が1992年に施行され、暴排条例が2011年に全都道府県で出揃ったこともあり、現在では「暴力団との付き合い=一発アウト」が共通認識になった。
    • ヤクザに対するほぼ人権侵害のような内容になっている。
    • ヤクザが非組織化したり地下化して、より凶悪化したり把握が困難になった、といった副作用はある。
    • あとフィクション作品でヤクザが、任侠的な世界から離れてカジュアル化(善人化・スパダリ化)かソルジャー化(日本刀で襲ってくる)の二極化する遠因にもなってるのかもと漠然と想像している。(身近にいなくなって空想動物化が加速した)
  • カルト(反社宗教団体)も、既に外国で信教の自由と抵触しない形で規制がかけられている実例がある。
    • 最終的には暴力団と似た形で「カルト対策法」のような規制ができるのかもしれない。

 

カルト対策法への道

  • 岸田首相はポピュリストではなく、自分で「風」を作って集票する能力には乏しいように見える。
    • 党内バランスに配慮しながら自身の権力基盤を確保していくほかない。
    • もともと安倍政権下で禅譲狙いだったようでもあるし。
    • 清和会を反社勢力と断罪して(小泉政権経世会にそうしたように)破壊し始めたらすごいけど、無理そう。(清和会以外にも飛び火しそうでもあるし)
  • 本来は、政権交代でしがらみをなくしてカルト対策法ができるのが素直な道筋かもしれない。
    • しかし「政権選択可能な二大政党」の状況からは遠い。
    • 現状で野党第一党立憲民主党の泉代表は、共産党と連合、国民民主党との関係を本気で整理していく意欲がどこまであるのかもいまいちよくわからない。55年体制下の社会党のような立場で満足する気だろうか。
  • そうすると「この問題の対応が中途半端だと支持率が落ち続ける」という恐怖くらいしかないのかもしれない。
    • 長い安倍政権下で「問題は指摘されてもスルーできる」という「成功体験」がすっかり身に付いてしまった。
    • 実際今回もそんな素振りを見せているようにも見える。

 

集票構造の転換

  • 「組織票の提供」や「選挙スタッフや議員秘書の無償供給」が候補者や政党にとって大きなウィークポイントになるのは、健全なんだろうか、という気持ちはある。
  • 投票率が低いことや、選挙時の一般市民のボランティア参加が少ないことが、そこに繋がっている。
    • 以前、立憲民主党の候補者がボランティアを大切にせず感謝しない、せっかくやっても徒労感しか残らない、といった話を見かけたのを急に思い出した。そういうところからちゃんとやれという気持ちある。
    • ポピュリズムも、「政治的に自分を有利にするために問題・争点を利用して解決しない/悪化させる人」は否定されるべきだが、「広く世論を喚起して自己の政策を実現させる」意味では右派/左派関係なく政治家・政治団体としては当然やるべきで、それをしないと組織票に頼ることになってしまう。
    • かつて森元首相無党派層について「関心がないと言って(投票に行かず)寝てしまってくれればいい」と発言して炎上したが、まさにその世界になる。
    • ※森は小泉と異なり失言が多く世論を喚起させる能力は低かった一方、ドン(ネットワーク上のハブ)として機能して政治的な課題解決には秀でた(但し全体最適ではなく膨大なロスコストがかかる)政治家だったので、浮動票より組織票が効く低投票率選挙を望む発言は「ふさわしい」と言えるが、「大衆(有権者)を相手にしない」と公言する人物は、民主主義国家の国会議員・首相の名に値しない。
  • 「3バン(地盤・看板・鞄)」とはよく言われるが、政治家がその構築に多大な労力を払わざるを得ない構造がある。
    • その結果、本来の政治家としての活動が疎かになったり、たとえ反社団体と知っていても手を差し伸べられると誘惑に負けたりする。
    • 以前『小泉進次郎福田達夫』で、世襲議員は地盤・看板の構築をスキップできる(親から引き継いでいる)アドバンテージが大きい、という話を読んだ。
    • 世襲議員はその分、政治家の本業や勉強に時間を費やすことができるため「出世」できるという。

 

  • 今回、世襲でない元市議の萩生田光一議員(元文科相・前経産相・現政調会長)が、清和会の中でも特に旧統一教会と関係が深かったと報じられたのは、象徴的な話だと感じた。
    • 八王子市議時代の90年代から関係があった、特に自民党が下野して自身も落選した2009年以降関係が深まった、今年の参院選でも生稲晃子議員の支援を要請した、といった報道がされている。
    • 萩生田議員について、大臣になる以前(3年半前)に↓のエントリを書いていた。「安倍首相へのお追従の技術がずば抜けている」「高い言論技術でそう見えないようにそうしている」という内容だった。
    • 権力に追従する技術 - やしお
  • 世襲でもタレントでも官僚でもない議員が、党内で「出世」して大臣になるのが、こういう「貢献」のし方によるのだとすると、(国民にとっても政治家本人にとっても)不幸なことだと思う。
  • そこにウィークポイントが残っている限り、暴力団やカルトではない、また別の反社会的団体の食い込みを受けることが繰り返されそう。
  • 世襲制限」は、必ずしも職業選択の自由とは抵触しない。世襲議員率の低い諸外国は、単に「親族が政治家だったことが特にメリットにならない」制度になっているだけで、「親が政治家だと政治家になれない」仕組みなわけではない。
    • 世襲の有利さがなくなる」は「組織票やマンパワーが欲しい」を直接的には解消しないが、少なくとも「構造的に不利な立場の議員を生み出して、危ない橋を渡る強い誘惑を与える」状況は軽減できるのかもしれない。

 

 「世襲のせいで今回のことが起きた!」という話ではなく(短絡し過ぎ)、世襲の有利さや市民の政治参加の希薄さなどがベースで「付け込まれるスキ」に繋がっているのかなと思った次第。
 今回の話で、直接的には「カルト対策法」で政治への侵食や一般への被害拡大を防ぐといった手当てが必要だとしても、もう少し広く眺めると、世襲解消や選挙構造への手入れも必要なのだろうと感じた。